フレディ・M・ムーラー監督の特集上映「マウンテン・トリロジー」が2月22日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開となる。このたび、ムーラー監督の代表作である『山の焚火』に寄せられたコメントが公開された。
ダニエル・シュミットやアラン・タネールらと並び、1960年代後半に起こったスイス映画の新しい潮流「ヌーヴォー・シネマ・スイス」の旗手として知られる、フレディ・M・ムーラー。代表作である『山の焚火』(85)は、ロカルノ国際映画祭で金豹賞(グランプリ)を獲得し、世界にムーラーの名を轟かせた。
『山の焚火』はロカルノ国際映画祭金豹賞およびエキュメニカル賞を受賞し、スイス国内では25万人を動員。スイス映画アカデミーよりスイス映画史上最高の一作に選定された。
本作について映画評論家の蓮實重彦氏は、その著書のなかで「フレディ・M・ムーラーの映画作家としての資質は、主題を選択しただけでは映画はいささかも始まらず、それが具体的なイメージとしてフィルムの表層に定着されないかぎり、何事も起りはしないだろうという聡明な認識に属している。」と本作を評し、また美術批評家の椹木野衣氏は、「これは神隠しについての映画だ。」と山の神秘性についてコメントしている。さらに是枝裕和監督は、「貧しい家族の営みを目にしながら、私たちがそこに感じるのは祈りにも似た畏怖である。残酷な暴力も、不幸さえも含めて、映画が描く時間のなんと豊かであることか。」と称えている。そのほか民俗学者の赤坂憲雄氏、横浜聡子監督、料理家・文筆家の高山なおみ氏から寄せられたコメントの全文は下記の通り。
『山の焚火』著名人 コメント一覧 (※順不同・敬称略)
フレディ・M・ムーラーの映画作家としての資質は、主題を選択しただけでは映画はいささかも始まらず、それが具体的なイメージとしてフィルムの表層に定着されないかぎり、何事も起りはしないだろうという聡明な認識に属している。
――蓮實重彦(映画評論家)
聖書に描かれているような原初の人の営みを、サイレントという映画の原初の形を想起しながら観る。そんな稀有
な体験を、この『山の焚火』は恩寵のように私たちに与えてくれる。
貧しい家族の営みを目にしながら、私たちがそこに感じるのは祈りにも似た畏怖である。残酷な暴力も、不幸さえも含めて、映画が描く時間のなんと豊かであることか。
――是枝裕和(映画監督)
斜面の映画が描きだしていたのは、創世神話のひと齣のごとき物語であったか。山の民によって紡がれてきた山中他界観に根ざしながら、世界が垂直方向に聖/俗へと分節化される瞬間に、われわれは立ち会うことになる。
――赤坂憲雄(民俗学者)
山ではどのようなことでも起こる。海はすべてを帳消しにしてしまう雄大さがあるけれども、山は違う。山はいつもなにかを隠している。もしくはそのことを知った者を世間から遠ざける。だから誰も山について詳しいことは知らない。フレディ・M・ムーラーの『山の焚火』はそのことを思い起こさせる。これは神隠しについての映画だ。
――椹木野衣(美術批評家)
大学の映画のVHSが大量にある映画ルームで初めて観て震えた!学業も半端で毎日構内うろつくだけで映画も大して好きじゃなかった若造の魂になぜかムーラーが響いた!
――横浜聡子(映画監督)
自然が豊かなら豊かなほど、厳しければ厳しいほど、人間がこしらえた決まりごとなど遠のいて、神話に近づく。
どこまでも清らかな、雪解け水のような映画だと思う。
――高山なおみ(料理家・文筆家) ※『高山ふとんシネマ』(幻冬舎文庫)より一部抜粋
作品タイトル:『山の焚火 デジタルリマスター版』
出演:トーマス・ノック、ヨハンナ・リーア、ロルフ・イリック、ドロテア・モリッツ、イェルク・オーダーマット、ティッリ・ブライデンバッハ
監督、脚本:フレディ・M・ムーラー
撮影:ピオ・コラーディ
録音:フロリアン・アイデンベンツ
編集:ヘレーナ・ゲルバー
スイス/1985/スイス・ドイツ語/カラー/117分
配給:ノーム
公式サイト:www.gnome15.com/mountain3/
2月22日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー
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