この度、第90回アカデミー賞で4部門にノミネートされ、3月5日(日本時間)に行われた授賞式で、ジェームズ・アイヴォリーが最優秀脚色賞を受賞した『君の名前で僕を呼んで』の日本国内で最速となる一般試写会が3月5日(月)に都内で開催。上映後には映画評論家の松崎健夫さんと映画解説者の中井圭さんによるトークショーが行われた。
『君の名前で僕を呼んで』最速試写会開催概要
日程:3月5日(月)
場所:ユーロライブ(渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 2F)
登壇者:松崎健夫(映画評論家)、中井圭(映画解説者)
まず話題は日本時間でこの日の午前中に開催されたアカデミー賞授賞式のことに。
見事、ジェームズ・アイヴォリーが脚色賞に輝いたが、アイヴォリーといえば、『眺めのいい部屋』、『モーリス』『日の名残り』といった傑作を送り出してきた名匠であり、本作には脚本家、そしてプロデューサーとして名を連ねている。本作は、北イタリアの避暑地で出会った2人の青年、エリオ(ティモシー・シャラメ)とオリヴァー(アーミー・ハマー)の恋を描くが、松崎さんは「これまでもいくつかの作品で、オブラートに包む形で同性愛的なものを描いてきた彼が、いま89歳にしてこうして脚本でこの物語を描いていることが意義深い」と語り、中井さんは、アイヴォリー自身が同性愛者である点に触れつつ「いまなお瑞々しさを、こうして物語にしていて、受賞も納得です」と称える。
さらに今回のオスカーで主演男優賞ノミネートのティモシー・シャラメに関しても絶賛!
日本でまだ知名度が高いとは言えないティモシーだが中井さんは「ここ10年以内で主演男優賞を獲ると言われている」と語り、松崎さんは、NY大学出身で劇中の流暢なイタリア語やフランス語、ピアノ演奏など多才ぶりを称えつつ、何よりもその透明感について、ルカ・グァダニーノ監督の「彼のいましかない瞬間を撮りたかった」という言葉を紹介。相手役を務めた、実生活では石油王の一族の御曹司であるハマーに対しても「1930年代の美形スターの系譜」という一般的なイメージに言及しつつ「彼自身はどう見られるかをわかっていて、挑戦的な役柄を選んでいる」と語り、ティモシー、ハマー共に作品選びのセンスが卓越していると賛辞を贈る。
そして、中井さんは本作の“本質”とも言える部分として、惹かれ合う同性の2人を描いた作品ではあるが「僕はこの作品を見て、LGBTを全く意識しませんでした。普通の恋愛映画と感じました」と告白。
『ブロークバック・マウンテン』が作品賞を逃してから、昨年『ムーンライト』が作品賞に輝くまで、LGBTを扱った映画とアカデミー賞との相性、アメリカ社会の変化がたびたび論じられてきたが、もはや“LGBT”をことさらに強調しない同性による“ごく当たり前の”恋愛映画が製作され、評価される時代がようやく訪れたと言及し、松崎さんもこれに深く同意し「自然にこういう作品が候補に入るようなってきた。この20年くらい、戦い続けてきた人がいて、それを認めていこうという人たちもいて、それがこうして叶うようになってきた。ダイバーシティの考えがこういう作品を後押ししてる」とこれまでの歴史的経緯を踏まえつつ、この変化がいかに大きなものかを強調した。
松崎さんは、足を重ねて寝るというショットを、あえてティモシーひとりのシーンでも映しておいて、その後、2人が足を重ねるシーンに繋げていくことで「無意識に観客の中でそれが繋がっていて、嫌悪感を抱かせないように作ってある」と指摘。中井さんは「行為そのものではなく、感情の機微を見せる描写が多く、そこも含めて上質な恋愛映画を見た気がしています」とうなずく。
また、松崎さんカメラの位置がやや低く、ティモシー演じるエリオの視線の高さで描かれており「観客の多くが自然とエリオの目線で感情移入するような画作りになっている」とも指摘。中井も「全体的に奥行きのあるショットが多い」と語り、エリオとオリヴァ―の距離を立体的に描きつつ、彼らの距離感をカメラと登場人物の位置関係で描いていると分析。「物語はシンプルだけど、関係性をセリフに頼ることなく観客に伝えている」とその卓越したカメラワークが映画の美しさだけでなく、感情までも描いていると語り「腕のない監督が撮っていたら、もっと平べったい物語になっていた。ルカ・グァダニーノの手腕が光る」と監督の技術を称えた。
さらにメインの2人に加えて、マイケル・スタールバーグが演じたエリオの父親役の重要性についても言及! 松崎さんは「お父さんはたびたびエリオにもオリヴァーにも『それでいいの?』という言葉を投げかけている」と指摘し「20年前の映画なら、もうちょっと説教臭かったり、(2人の関係に)反対するキャラとして描かれていたはず」と時代の変化と共に息子の性的な志向に対して、肯定的に捉える周囲の存在を描いている点の意義を語った。
中井さんは最後に改めて「この作品はLGBTの映画ではなく、ごく普通の恋人たちの作品。人間の機微を描いたエモーショナルな作品です」と繰り返し「(LGBTを)特別視している状況がもう違う」とも。
松崎さんはアカデミー賞で歌曲賞にもノミネートされた点を踏まえ、オリジナル曲に加えて、坂本龍一の曲や物語が展開する1983年公開の映画『フラッシュダンス』の楽曲が引用されていることも紹介し「サントラが素晴らしいです」と物語、映像に加えて音楽性の高さまで備えていることに称賛を贈る。
『君の名前で僕を呼んで』は4月27日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー。
世界各地の映画賞を多数受賞、アカデミー賞4部門にノミネートされた本作。
主演は、主演男優賞やブレイクスルー賞を軒並み受賞し、今や初主演にしてオスカー主演男優賞最年少も期待される新星ティモシー・シャラメ。共演は、長身の整った容姿も魅力的な『コードネーム U.N.C.L.E.』のアーミー・ハマー。
刊行時から話題を集めた原作を脚色したのは、現在89歳の名匠ジェームズ・アイヴォリー。『眺めのいい部屋』や『モーリス』、『日の名残り』といった名作を生み出して来た名匠が、17歳と24歳の青年の初めての、そして生涯忘れられない恋の痛みと喜びを描きました。監督は『ミラノ、愛に生きる』のイタリア出身のルカ・グァダニーノ。主演、助演すべての俳優たちの見事なアンサンブルと、美しく深いシナリオを得て、いよいよその才能を花開かせた傑作。
ストーリー
1983年夏、北イタリアの避暑地で家族と夏を過ごす17歳のエリオは、大学教授の父が招いた24歳の大学院生オリヴァーと出会う。一緒に自転車で街を散策したり、泳いだり、午後を読書や音楽を聴いたりして過ごすうちに、エリオのオリヴァーへの気持ちは、やがて初めて知る恋へと変わっていく。
作品タイトル:『君の名前で僕を呼んで』
出演:ティモシー・シャラメ(『インターステラー』、『Lady Bird(原題)』)、アーミー・ハマー(『コードネーム U.N.C.L.E.』)、マイケル・スタールバーグ、アミラ・カサールほか
監督:ルカ・グァダニーノ(『ミラノ、愛に生きる』、『胸騒ぎsのシチリア』)
脚色:ジェームズ・アイヴォリー(『眺めのいい部屋』『モーリス』『ハワーズ・エンド』『日の名残り』)
原作:アンドレ・アシマン 「Call Me By Your Name」
2017年/イタリア、フランス、ブラジル、アメリカ/カラー/ビスタ/5.1ch/132分/PG12
提供:カルチュア・パブリッシャーズ/ファントム・フィルム
原題:Call Me By Your Name
配給:ファントム・フィルム
公式サイト:cmbyn-movie.jp
コピーライト:(c)Frenesy, La Cinefacture
4/27(金)、TOHOシネマズ シャンテ 他 全国ロードショー