【レポート】『梅切らぬバカ』主演・加賀まりこ、息子役・塚地武雅へのセリフに「自然とこみ上げるものがあった」

梅切らぬバカ

母親と自閉症を抱える息子が社会の中で生きていく様を描いた映画『梅切らぬバカ』(11月12日(金)公開)の完成報告会に、主演の加賀まりこ、息子役を演じた塚地武雅、そして和島香太郎監督が登壇した。

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『梅切らぬバカ』完成報告会

日時:11月4日(木) 13:30~14:00
登壇者(敬称略):加賀まりこ、塚地武雅、和島香太郎監督
場所:スペースFS汐留

ステージに登壇した加賀は「今朝、上映館が増えたと電話で言われて。とてもうれしい一日のはじまりでした。」と笑顔を見せた。そして塚地が「予告編の動画再生数が330万回を超えていて。イケメンやアイドルが出ていないとこの数字にならないと言われました」と続けると、加賀が「イケメンならここにいるじゃない」と塚地に向かってニッコリ。その言葉を受けた塚地も笑顔になり、「たくさんの方が予告編を観て、良かったと言っていただけたので、ぜひとも本編も観ていただきたいなと思います」と呼びかけた。

加賀、塚地が演じる親子は、試写会などでもまるで本当の親子のようだという声が多く寄せられたという。そんなキャスティングについて、和島監督は「映画監督を志そうとした時に、岩井俊二監督の『Love Letter』を何十回と観てきて、映画女優として昔から観てきたということと、バラエティー番組での加賀さんの様子がとても印象に残っていて、占い師の役としてハマるところがあるんじゃないかと思いました。そして塚地さんに関しては、モノマネなどの芸を観て、相手の世界をものすごく大事にされているんだな、というこだわりの強さを感じていました。実際に撮影でも自閉症の方の世界を大切にしながら、接してくださったのが印象に残っています。塚地さんにお願いして良かったなと思っています」と振り返った。

印象的なシーンを問われた加賀は、忠男を抱きしめて「生まれてきてくれてありがとう。母ちゃんは幸せだよ」という想いを伝えるシーンと回答。「わたしにとって一番大事なシーンで、自然とこみ上げるものがあった」と告白。ところが、監督からはNGが出されたそうで「監督がすごく嫌がるんですよ。『もう一回やってください。涙いりません』って、結構冷たく。ムカッとくるぐらい」と笑わせつつも、「今でも撮り直せるなら撮り直したいぐらい気になります」と明かした。

和島監督は「撮影が終わってから、ひと月後ぐらいに加賀さんが『あのシーンだけ夢に出てきて、どうすればよかったんだろう』と考えてくれているのが分かった。加賀さんは『執着がない』と仰っていらっしゃるので、少し覚えてくださっているのがうれしかった」と後日談を語った。

「ありがとう」のセリフは加賀の提案により追加されたことが明かされたが、そこにも裏エピソードが。もともと和島監督は「ありがとう」というセリフを考えておらず、「どうやって回りくどく表現すればいいだろうか」と考えていたという。加賀から提案された後、自閉症の子供を持つ母親に取材し「このシナリオには『ありがとう』という言葉がないんですね」と言われたことで、追加を決意。加賀は「わたしだと自己満足で言っているみたいに聞こえて心配だったのよね。それもわかるけど、やっぱりあってよかったわね」と微笑んでいた。

今回初共演となる加賀と塚地。以前から塚地の大ファンだったという加賀は「あたたかいというのと、雑誌で見た素の塚地さんがすごくオシャレで。普段もカッコいいなと思ったのと、それからなんと言っても(芝居が)うまいですもの。すごいなと、うなることがたくさんある」とコメント。

一方の塚地は「こう言うと本人は嫌がりますけど、大女優さんですし、バラエティー番組では歯に衣着せない発言も多かったので最初は怖かったんです。でも初めて顔合わせした時、グループホームを訪問した後だったのですが、僕にできるのかと悩んでいる時にで。その悩みを見せないように明るくしていたんですけど、加賀さんにはすぐに『悩んでいるわね』と見透かされてしまって。そこでウワーッとなって、『そうなんです、実は大丈夫かなと思っていまして……』という話をするようになりました。そういう意味でも頼れる先輩のようであり、お母さんのような感じでした」と続けた。

そして加賀も「とにかくわたしは撮影の時もずっと、息子の“ちゅうさん”を好きになってほしいと考えていました。余計な芝居を考えずに、ただこの子を好きになってほしいと思っていたので、それが伝われば一番うれしいです」と振り返った。

最後にコメントを求められた塚地は、「この間、取材してくださった女性のライターの方が、実際に自閉症のお子さんを持つ方で。子どもと一緒に映画を観たんですけど、普段は映画に集中できない子なのに、この映画だけは食い入るように観ていて。まるで友だちを見つけたように楽しそうだったと笑いながら言ってくださって。本当にそれだなと。映画館が、そういう方とも共有できる場所になればいいなと。見終わったら肩の力が抜けて、優しい気持ちになれる映画だと思うので。多くの方に足を運んでいただけたら幸いだなと思います」と語った。

また、加賀も「この映画を観た方々が、街中で自閉症の方に出会った時に、手を差しのべてくださるまではしなくていいですけど、ほほ笑んでくれたらいいなと。それだけを願っております」とメッセージを送った。


イントロダクション
本作で54年ぶりの主演を務める加賀まりこが演じるのは、軽口を叩きながらも、愛情と包容力にあふれる母親・珠子。小柄な身体で大きな息子の世話をする姿はとてもチャーミング。だからこそ、やがて訪れる“息子が1人で生きる未来”を案ずる横顔が、より一層切なく観る者の胸に迫る。息子・忠男役には『間宮兄弟』で日本アカデミー賞新人賞を受賞し、NHK連続テレビ小説「おちょやん」など俳優としても活躍中のドランクドラゴンの塚地武雅。さらに、珠子たちの家の隣に引っ越してきた里村夫婦を、渡辺いっけい森口瑤子が演じ、珠子と交流を深めていく里村家の息子・草太をドラマ「浦安鉄筋家族」の小鉄役が記憶に新しい斎藤汰鷹が好演。地域コミュニティとの不和や偏見といった問題を取り入れながらも、揺るぎない親子の絆と、他者との触れ合いを描き、あたたかな感動をもたらす。

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