ジョージア映画の不朽の名作であり、巨匠テンギズ・アブラゼ監督が21年の歳月をかけて完成させた「祈り三部作」<『祈り』(67)、『希望の樹』(76)、『懺悔』(84)>を日本で初めて一挙上映することが決定、8月4日(土)より岩波ホールほか順次全国にて3作品同時公開される。この度本作のポスタービジュアルと本予告編が完成した。
コーカサスの国、ジョージア(グルジア)に、映画が誕生して今年で110年。一世紀を超える雄大な時の流れを感じる節目の年に、世界映画史の金字塔とよばれるジョージア映画の不朽の名作が日本で初公開される。その映画とは、実に51年の歳月を経て日本初公開を迎えることとなり、ジョージア映画史の戦後の発展を担ってきた巨匠テンギズ・アブラゼ監督が20年の歳月をかけて完結させたトリロジーの一作目である『祈り』だ。
激動の歴史に翻弄されながらも、必死に守り続けてきた伝統や風習、風物といった民族文化を積極的に取り入れて、ギオルギ・シェンゲラヤ監督『放浪の画家ピロスマニ』(87)、オタール・イオセリアーニ監督『落葉』(66)といった世界に誇る数々の名作を生み出してきた。そんな独自の映画史を刻んできたジョージアで、20世紀を代表する映画監督としてロシアのアンドレイ・タルコフスキー監督やギリシャのテオ・アンゲロプロス監督と並び、世界の映画人から賞賛されたアブラゼ監督が後世の映画人に与えた影響は計り知れない。そして、この度の『祈り』日本初公開を受けて、アブラゼ監督渾身のトリロジーであり、世界的にも伝説と化していた「祈り三部作」の一挙上映が今夏、日本で実現する。
宗教間の対立を描き、人間の尊厳と寛容を謳った『祈り』(67)に加え、1979年のダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞を受賞した『希望の樹』(76)では美しい娘と青年の純愛が古い掟と因習によって打ち砕かれていく様を、そして1987年のカンヌ国際映画祭の審査員特別賞を受賞した『懺悔』(84)では独裁者によって困難を強いられる市井の人々を描き、3つの異なる視点で一貫して社会の不条理を告発し続けた。約50年がたった現在でも、宗教間や人種間の対立は止まず、むしろ他者に対する寛容さは薄れている。さらに、自国ファーストを提唱する一国のリーダーが現れ、それに呼応する人々が増える中で、世界の分断と対立はより一層拡がる一方。そんな現代だからこそ、日本にいる私たちが目撃すべきジョージアの姿がここにはある。
このたび解禁されたポスタービジュアルは、『祈り』に登場する少女が右手に蝋燭をかかげながら暗闇に佇む静粛さを感じさせる場面写真が挿入され、『祈り』の作品そのもののような白と黒のコントラストが印象的なビジュアルとなった。予告編は3作品の特徴を印象付けるものとなっており、『希望の樹』の若者2人の瑞々しいやり取りが映し出された次には、スターリン時代の粛清を描いた『懺悔』の象徴的なシーンが挟み込まれ、最後に『祈り』の白と黒のコントラストに圧倒される、まさに三者三様の描き方でアブラゼのメッセージを受け取ることのできる予告編だ。また、冷戦の只中にあった1983年にロシア語学科在学中の大学生ながら発表した著作で芥川賞候補となり、近年は時事的な問題にも鋭く切り込むコメントが話題の作家・島田雅彦さんから「祈り三部作」に寄せて以下のコメントが到着した。
「古代の叙事詩のオーラを醸すこの三部作には歴史には残らないエモーションが刻みつけられている。」
テンギズ・アブラゼ監督
今年110年を迎えるジョージア映画史の戦後の発展を担ってきた代表的監督。
ソヴィエト連邦グルジア共和国クタイシ生まれ。モスクワ大学卒業後、友人のレヴァズ・チヘイゼと劇映画第一作『青い目のロバ』(‘55)を共同監督し、カンヌ国際映画祭短編グランプリを受賞。以降、『祈り』では宗教の対立、『希望の樹』では因習、『懺悔』では独裁者によって困難を強いられる市井の人々を描き、社会的不正義を告発し続けた。しかし、その根底には人間への限りない信頼があり、寛容性、愛、自由への深い祈りが込められている。
「祈り三部作」上映作品
『祈り』<日本初公開>
日本初公開。19世紀ジョージアの国民的作家V・プシャヴェラの叙事詩をもとに、モノクロームの荘厳な映像で描いた作品。ジョージア北東部の山岳地帯に住むキリスト教徒とイスラム教徒の因縁の対立を描き、敵味方を超えた人間の尊厳と寛容を謳う。
<受賞歴>
1973年サンレモ国際映画祭グランプリ
1967年/ジョージア映画/ジョージア語/白黒/78分/シネマスコープ
コピーライト:(c)“Georgia Film”Studio, 1968 (c) RUSCICO, 2000
『希望の樹』
20世紀初頭、革命前のジョージア東部カヘティ地方に美しい農村。時代の大きな変化を予感して村人たちはそれぞれに動揺していた。そのなか美しい娘と青年の純愛は古い掟と因習のために打ち砕かれてゆく。20世紀を代表するG・レオニゼの短編集が原作。
<受賞歴>
1977年全ソヴィエト映画祭大賞、テヘラン国際映画祭金牛賞
1978年カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭特別賞
1979年ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞
1976年/ジョージア映画/ジョージア語/カラー/107分/スタンダード
コピーライト:(c)“Georgia Film”Studio, 1977 (c) RUSCICO, 2000
『懺悔』
架空の地方都市で、元市長の墓が何者かに暴かれ、犯人の女性が捕らえられる。彼女の証言によって、元市長の独裁により、多くの市民が粛清されたことが明らかになってゆく。スターリン時代を描いたといわれ、ソ連邦のペレストロイカの象徴となった。
<受賞歴>
1987年カンヌ国際映画祭審査員特別賞・国際批評家連盟賞・キリスト教審査員賞、シカゴ国際映画祭審査員特別賞
1988年ソ連アカデミー賞作品賞、監督賞、主演男優賞、撮影賞、脚本賞、美術賞
1984年/ジョージア映画/ジョージア語/カラー/153分/スタンダード
コピーライト:(c)Georgia Film ,1984 (c) RUSCICO, 2003
作品タイトル:『祈り三部作』
岩波ホール創立50周年記念特別企画
後援:在日ジョージア大使館
配給:ザジフィルムズ
公式サイト:www.zaziefilms.com/inori3busaku
コピーライト:
『祈り』
(c) “Georgia Film” Studio, 1968 (c) RUSCICO, 2000
『希望の樹』
(c) “Georgia Film” Studio, 1977 (c) RUSCICO, 2000
『懺悔』
(c) Georgia Film ,1984 (c) RUSCICO, 2003
8月4日(土)より、岩波ホールほか全国順次公開