【レポート】『ボイリング・ポイント/沸騰』タサン志麻さんがレストランの裏の人間ドラマを語る「シェフはアスリート」

ボイリング・ポイント/沸騰

本国イギリスでスマッシュヒットとなった『ボイリング・ポイント/沸騰』(7月15日(金)公開)の試写会にフランスのレストランで映画さながらの料理人修行をしていた伝説の家政婦・タサン志麻さんが登壇、元東京国際映画祭映画祭プグラミング・ディレクターで世界の映画を鑑賞してきた矢田部吉彦さんの進行により、本作の魅力とレストランの裏の人間ドラマを語った。

ロンドンの高級レストランを舞台に、崖っぷちのオーナーシェフの波乱に満ちたスリリングな一夜を、全編90分ワンショットで捉えた本作。正真正銘のノーCG、ノー編集。新鋭フィリップ・バランティーニ監督が人気レストランの表と裏を同時に味わえる、濃密な人間ドラマを作りあげた。

そして試写会上映後、MCの矢田部さんの呼びかけにより、志麻さんが登壇。大きな拍手の中、まずは本作の感想を聞かれると「本当に長くレストランで働いていたので、まさにこのレストランの一員になった気持ちで観ていました。何度も涙ぐんで、どの立場の人の気持ちも痛いくらいにわかるので…シェフが怒鳴っていることも日常茶飯事。私は経験したことがないものもあるけれど、劇中のトラブルの描写はありえますよね。そういうところが本当にリアルだなと思って観ていました。」と自身の実体験と重ねながら観た感想を話した。

矢田部さん「涙ぐむというのは新鮮です」と言うと、志麻さんは「リヨンの3つ星レストランで勤務していましたが、とても厳しかったです。研修生が世界中から集まってくる大きなレストランだったので、本作のレストランほど追われる感じではなかったが、“野菜を何ミリに切れ”と言われたら物差しを皆、耳に挟んでいて、ちょっとでもそれが大きかったらそれを捨てろと言われていました。また、海外で働くとシェフに怒られてもスタッフが言い返したりする。そしてみんなで言い合いになってしまったり、実際にあったなと思いました」と続けた。

また、クリスマスの混乱するレストランでの経験について、志麻さんは「12月は一度も休みがなく、クリスマスの前日は泊まり込みで仕事をしていました。一年で一番の稼ぎ時ということで…だから、本作でそんな日に衛生監視官の人が来ているというのに驚きました!」と笑い、それでも「衛生監視官の人も繁忙期を狙ってきているのでしょうからね」と脚本のリアリティに納得の表情を見せた。

肉料理の焼き直しをリクエストするお客さんについては、「本当によくある。“ちょっとレアすぎる”など私も料理人という立場であれば、劇中のように怒ってしまうかもしれません。フロアの人のせいにするというよりは、レアですけど大丈夫ですか?とか説明があったほうが良いと思いますけどね。ベストの状態のものを食べてほしいという想いがありますから。でも今は、家政婦という立場ですので、やっぱり焼き直します。」と語り、笑いを誘った。

ボイリング・ポイント/沸騰

またフロアvs厨房という対立構造も、「料理人は料理のことを一番に考えていて、フロアの人はお客さんのことを最優先に考えている。そこで対立することはあって当たり前。」と持論を展開。

一方、矢田部さんは「厨房のすごい忙しいところと、ゆっくりしたシーンと、緊張と緩和を本作は貫いていて素晴らしい。また社会派的な主題もたくさんある」と本作の映画としてのクオリティを絶賛した。

「女性がレストランで働くという意味ではどうでしたか?」という質問に、志麻さんは「フランスでは、女性を男性が助けようとしてくれますね。私がフランスから日本に帰ってきた頃は、女性も男性のように働かないといけないという感じで、とても女性は働きにくかった。重たくて持てないとか、言えない雰囲気でした。だから筋トレもしました」と過去の努力を明かした。

また「子供を育てながらできる仕事ではなく、夜もサービスがあるので生き残っていける人は少ない、というイメージだった。ただ今はすごく変わってきていると思う。実際どんどん改革して、働きやすく変えている友人もいます」とレストラン業界での過去の経験と、希望を語った。

そして最後は、「レストランの仕事は精神的なプレッシャーも大きく、体力も使います。労働時間も長いし、大変な仕事だと思う。一回一回が試合みたいな感じで、うまくいったなと思う時もあれば、今日はダメだったなと思う日もある。アスリートに近いところがありますね。今の家政婦の仕事でもそうだけれど、一回たりとも満足できたサービスはなく、常に上を上を目指しています。」と志麻さんのコメントで締めくくり、イベントは大盛況のうちに終了した。

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