【レポート】映画『市子』東京国際映画祭・ジャパンプレミアに戸田彬弘監督登壇!映画化の裏側を明かす

現在開催中の第36回東京国際映画祭にて、映画『市子』のジャパンプレミアとなる公式上映が行われ、本作でメガホンをとった戸田彬弘監督のQ&Aが実施された。

目次

第36回東京国際映画祭 Q&A概要

日時:10月26日(木) 21:56~22:26
場所:角川シネマ有楽町(千代田区有楽町1-11-1 読売会館8階)
映画『市子』参加者:戸田彬弘監督

本作の上映後に戸田監督が登壇すると、会場からは大きな拍手が沸き起こった。まず、「遅い時間にも関わらずジャパンプレミアにお越しくださいましてありがとうございます」と挨拶。満席の劇場へ向けて感謝の想いを語った。

Q&Aセッションで手を挙げた観客の中には、原作である舞台を鑑賞した人の姿も。「映像の方が表現できる幅が広がっていて印象的でした」と話し、映画ならではの『市子』の魅力を楽しんだようだ。まず、本作を映画化するに至ったきっかけを訊かれた監督は、「2015年に初演をやって、脚本賞をいただいて再演をした際に映像化のお話があったのですが、舞台を映像に変えるというアイディアが自分の中で無かったのでお断りしてしまったんです。その後、2018年に続編と共に再演するという話になった時に、これなら映画化できるのではという考えが浮かんできて、そのタイミングでまた映画化のお話をいただき、(映画の脚本を)書き始めました」と明かした。

そもそもオリジナルとなる本作を書き始めたことについては「SNSが流行り始めた時代に、一緒に作品を作ったスタッフさんや、大学の後輩が、若くして亡くなってしまうということがあって、だけどFacebook上では存在がある、誕生日とかの通知が届くんですね。そしてそのページに行くと、誕生日おめでとうと言う言葉が並んでいる。もういないのに、知らない方からすると生きていて、存在しなくなった人が存在しているということに奇妙な感じがし、そこから存在しているのに存在しないものとして、日本の中で市子の境遇のような人たちがいることも知っていたので、そこにつながりこの話を書こうと思いました」とコメント。

舞台から映画化に際しての工夫や、難しかった点を聞かれると「演劇のときは、同じように市子という役を演じる俳優さんはいらっしゃったのですが、ただ存在しているのにしていないということをテーマにしていたので、そこに市子はいるけど、つかめない、見えないという風に、象徴的なものとして作っていました。映画にする場合は、市子という役を俳優が演じている姿を撮影していくとそこに実存しているように映ってしまうので、リアリティのあるものを作ろうとした時にそこが難しいのではないかと思いました。どうすれば市子をカメラで捉えながら、市子の不在、彼女を掴めない感覚を作っていけるのかなと、かなり苦労しながらシナリオを書いていきました。なので、章立てをして過去に市子に関わった人々の視点で彼女を映し出し、市子の主観を出していかないという方法論で映画化を進めることになりました」と当時を振り返った。

さらに本作の市子というキャラクターとキャスティングについても質問が及ぶと、これに対し戸田監督は「リアリティのある作品にしなくてはいけないと思っていたので、まず年表を作りました。(主人公の設定である)1987年東大阪生まれの子供は、バブル崩壊、地下鉄サリン事件、阪神淡路大震災があって、3.11や9.11を経験した世代だと思うのですが、その年表をまず作り、その中に市子の年表を作って彼女の人生に現実味を与えていきました。市子は多面的に様々な視点から描かれていくキャラクターなので、一面的な表現ではなく幅のあるお芝居ができる人に託したいと思っていたところ、杉咲さんの過去作を観ていて、杉咲さんの演技に市子を演じて頂く可能性をとても感じました」と語り、市子という存在に杉咲を投影した背景も明かしてくれた。

また、監督が作品に込めた願いについて訊かれた監督は、「正しさというのは一体何なのか、は生きていく上ですごく考えていることです。世の中にある正しさやモラルというものは、簡単には処理できないものだと思っています。それぞれ、本作をご覧になったみなさんが市子という女性をどういう風に捉え、どういう風に考えるのか。自分の人生をフィードバックしていくきっかけになればと思い作りました」と語った。

ストーリー
川辺市子(杉咲花)は、3年間一緒に暮らしてきた恋人の長谷川義則(若葉竜也)からプロポーズを受けた翌日に、忽然と姿を消す。途方に暮れる長谷川の元に訪れたのは、市子を探しているという刑事・後藤(宇野祥平)。後藤は、長谷川の目の前に市子の写真を差し出し「この女性は誰なのでしょうか。」と尋ねる。市子の行方を追って、昔の友人や幼馴染、高校時代の同級生…と、これまで彼女と関わりがあった人々から証言を得ていく長谷川は、かつての市子が違う名前を名乗っていたことを知る。そんな中、長谷川は市子が置いていったカバンの底から一枚の写真を発見し、その裏に書かれた住所を訪ねることに。捜索を続けるうちに長谷川は、彼女が生きてきた壮絶な過去と真実を知ることになる。

作品タイトル:『市子』
出演:杉咲 花 若葉竜也 森永悠希 倉 悠貴 中田青渚 石川瑠華 大浦千佳 渡辺大知 宇野祥平 中村ゆり
監督:戸田彬弘
原作:戯曲「川辺市子のために」(戸田彬弘)
脚本:上村奈帆 戸田彬弘
音楽:茂野雅道
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ

公式サイト:https://happinet-phantom.com/ichiko-movie/
公式X:@movie_ichiko
コピーライト:(C)2023 映画「市子」製作委員会

12月8日(金)テアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

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