映画『本心』のスペシャル対談イベントが10月21日に東京都内にて実際され、池松壮亮と小説家の平野啓一郎が登壇した。
原作は、平野啓一郎の同名小説。主人公の朔也(池松壮亮)は、母・秋子(田中裕子)と二人でつつましい生活を送るごく普通の青年。しかしある日、「大事な話があるの」と言い残して急逝した母・秋子が、実は“自由死”を選んでいたことを知ってしまう。幸せそうに見えた母がなぜ自ら死を望んだのか。母の本心を探るため、朔也は不安を抱えながらも、AIに集約させ人格を形成するVF(ヴァーチャル・フィギュア)を利用し、仮想空間に母を“蘇らせる”選択をする。
書店員を中心に招待し行われた試写会後に登壇した池松と平野。池松は原作について、「コロナは描かれていないけれど、すでにアフターコロナが描かれていた。そこに衝撃を受けました。今ある様々な社会問題が拡張した世界を彷徨いながらも他者に自分を見出して、揺らぎながら生きる実感を手放さない朔也に魅了されました」と魅力を語った。
一方、平野は原作誕生の背景について、「自分が高齢者になる時代を考えた時に、自分はいつまで生きられるのだろうかと思いながら生きるのは嫌だと思った。生きる事を肯定的に捉えられる社会がいいと思って、子どもたち世代が社会の中心になる時代を考えた。それが未来を舞台にした理由で、当初はAIと人間の共存を肯定的に描こうとしたが、やはりAIと人間は同じではないので、最初の構想とは違う物語になった」と熱を込めて振り返った。
2019年に新聞で連載されていた当時、原作「本心」は2040年代を舞台にした“未来の物語”として描かれていた。しかし、現実では想像を超える速度でテクノロジーが発展。映画の舞台設定も合わせて「今から地続きの少し先の将来(物語の始まりは2025年)」へと前倒すことに。
原作を読み、“今やるべき作品”“これは自分の話だ”と感じ、石井裕也監督に自ら企画を持ち込み、原作権獲得に向けて平野に直談判をしたという池松。「俳優が出すぎた真似かなと思いつつ、映画化の一つの説得材料になればいいかなと思ったし、単純にファンだったので平野さんに会いたいという気持ちもあった」と笑いつつ、「自分の気持ちを伝えたかった」と強い想いがあったと振り返る。
これに平野は「俳優の方が映画化したいとわざわざ会いに来てくれるのは珍しく、池松さんの映画に対して持つ真面目な考えと映画化を実行しようとする意欲に心打たれた。池松さんの映画に対する真摯な態度と、ピュアな心を持つ『本心』の主人公・朔也はどこか響き合うものがある気がした」と快諾した理由を明かした。
映像化について平野は、「原作は情報量が多いので、ストーリーをなぞる様な映画化をしてしまうとダイジェスト版になってしまう。一度解体して映画的に石井監督のイメージも含めて再構築しないと無理だと思った。ただ提出される脚本の第一稿から面白かったし、それは映画化に際していい兆候だとも思った」と納得の表情。完成した作品については「僕がイメージしきれなかった映像表現もあって、役者の皆さんが血肉を通わせ一つの物語にしてくれた」と太鼓判を押した。
また平野は池松について「映像でヴァーチャルな存在と生身の存在の区別がつくのか不安だったけれど、池松さんが汗をかいて生々しい肉体で演じてくれたことで、(AIに集約させ仮想空間で人格を形成する)ヴァーチャル・フィギュアの母親との対比が色濃く表れたと思う。池松さんのお陰で肉体を持った存在としての人間が映画として強調されたのが素晴らしかった」と賞嘆。
池松は、朔也の母との別れのシーンの撮影に触れ、「平野さんが現場に遊びに来てくれて、なぜここで来るのだろうかと…(笑)。緊張している中で平野さんに見られるんだと思いながら…」と苦笑いをしつつも、「僕自身15歳の頃に亡くなった大好きだったおじいちゃんと頭の中でいまだに何度も再会している中で、テクノロジーが死者との境界線を曖昧にしている怖さと再会できる喜びという複雑な感情がありました」と撮影時の心境を明かしていた。
観客とのQ&Aではラストの解釈に関する質問が。これに池松は「結構聞かれるシーンではありますが…どう見てもらってもいいような余韻が残るラストになりました。解釈は見ていただいた方々にお任せしたいと思います」と語るに留めた。
最後に平野は「多くの方々に楽しんでいただきたいですし、今日映画を観た書店員さんには池松さんほどの役者がこんなに感動した原作だ、ということを声を大にして伝えていただき、より多くの方々に原作本を手に取ってもらえれば」とユーモアを交えつつも丁寧に言葉を紡ぐ。
主演の池松も「原作の平野先生と対談が出来たので、これ以上緊張することはもうないと思うので後は初日を迎えるだけです」と笑顔を見せて「平野さんは今日まで映画というものを尊重して寄り添ってくれていました。適切な距離感を保ってくれて応援してくれたことが後押しにもなりました。沢山の同時代を生きる人たちとこの物語を映画として共有出来たらと思います。僕が感動した原作も映画と合わせて楽しんでいただければ幸いです」と呼び掛けていた。
映画『本心』は11月8日(金)より全国ロードショー。
ストーリー
工場で働く青年・朔也(池松壮亮)は、同居する母(田中裕子)から仕事中に電話が入り「帰ったら大切な話をしたい」と告げられる。帰宅を急ぐ朔也は、途中に豪雨で氾濫する川べりに母が立っているのを目撃。助けようと飛び込むも重傷を負い、1年もの間昏睡状態に陥ってしまう――。目が覚めたとき母は亡くなっていて、生前“自由死”選択していたと聞かされる。また、ロボット化の波で勤務先は閉鎖。朔也は、唯一の家族を失くし、激変した世界に戸惑いながらも幼なじみの岸谷(水上恒司)の紹介で「リアル・アバター」の仕事を始める。カメラが搭載されたゴーグルを装着し、リアル(現実)のアバター(分身)として依頼主の代わりに行動する業務を通して、人々が胸の内に秘めた願いや時には理不尽な悪意に晒され、人の心の奥深さとわからなさを日々体感してゆく。そんななか、仮想空間上に任意の“人間”を作る「VF(ヴァーチャル・フィギュア)」という技術を知る朔也。いつまでも整理のつかない「母は何を伝えたかったのか?どうして死を望んでいたのか?」を解消したい気持ちから、なけなしの貯金を費やして開発者の野崎(妻夫木聡)に「母を作ってほしい」と依頼する。野崎の「本物以上のお母様を作れます」という言葉に一抹の不安をおぼえた朔也は「自分が知らない母の一面があったのではないか?」と、手掛かりを求めて、母の親友だったという三好(三吉彩花)に接触。彼女が台風被害で避難所生活中だと知り、「ウチに来ませんか」と手を差し伸べる。かくして、朔也と三好、VFの母という奇妙な共同生活がスタートする。その過程で朔也が知る、母の本心とは。そして「人に触れられない」苦悩を抱える三好を縛る過去、彼女だけが知る母の秘密とは。その先に浮かび上がるのは、時代が進んでも完全には理解できない人の心の本質そのものだった――。
『本心』
出演:池松壮亮 三吉彩花 水上恒司 仲野太賀 / 田中 泯 綾野 剛 / 妻夫木 聡 田中裕子
原作:平野啓一郎「本心」(文春文庫 / コルク)
監督・脚本:石井裕也
音楽:Inyoung Park 河野丈洋
制作プロダクション:RIKIプロジェクト
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2024 映画『本心』製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/honshin/
公式X:@honshin_movie
11月8日(金)より全国ロードショー
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