映画『ケナは韓国が嫌いで』の先行試写イベントが2月19日(水)、東京・日比谷コンベンションホール(大ホール)で行われ、映画上映後のトークイベントに、現代韓国を専門に研究している聖学院大学政治経済学部教授の春木育美さんと、モデレーターとしてWill Labの小安美和さんが登壇した。
『ケナは韓国が嫌いで』場面写真
第28回釜山国際映画祭オープニング作品として話題を呼んだ本作は、現代の韓国社会を舞台に、生まれ育った場所で生きづらさを感じる女性が人生を模索する姿を描いた作品。小説「82年生まれ、キム・ジヨン」と同じ出版社から刊行されたベストセラー小説「韓国が嫌いで」を原作に、韓国の若者が直面する現実を映し出す。
メガホンをとったのは、「第二のホン・サンス」「韓国の是枝裕和」と称され、映画『ひと夏のファンタジア』で知られるチャン・ゴンジェ監督。2015年に原作を読んだ監督自らが映画化を熱望し、9年の歳月をかけて本作を完成させた。
主演のコ・アソンが演じる主人公で、28歳のケナは地獄のような長時間通勤、恋人との不透明な未来、仲が良いけれど息が詰まるような家族との日々のなかで、“ここでは幸せになれないと”感じ、新しい人生を始めるため、すべてを手放しニュージーランドへ旅立つ。
イベントでは、映画の感想を聞かれた春木さんが「本作の原作である『韓国が嫌いで』は、2015年の発売当時韓国ですごく話題になった本です。今回の日本での公開まで約10年、とても楽しみにしていました。韓国の今の若者が抱く閉塞感、不安、苛立ち、映画のなかで韓国の構造的な問題がちりばめられている作品で、そこが興味深かったと思います」とコメント。
なぜ、ケナは生まれ育った国を出て、ニュージーランドへ向かったのかという話になり、春木さんは日本人が想像する以上に韓国が階層社会であることを解説。「原作の発売当時、『ヘル・朝鮮』『スプーン階級論」という言葉が話題になっていました。韓国は非常に階層社会で、身分が固定化している社会ではないかと若者が訴えていたのです。親の階層によって、進学、就学、結婚が思ったようにできない。生まれながらに、金のスプーン、泥のスプーンを持ってきた、などの表現がありました。ケナは韓国人から見たら恵まれていると思います。貯金が300万あり、奨学金も返済している。そして、大企業に勤めている。しかし、ケナの家族は貧しい、労働者階級です。ケナが、大学時代から長く付き合っている裕福な家庭出身の恋人の家族と食事をするシーンで、互いの家族の階層が違うとことを感じさせる描写が会話の中で続いています。そして、ケナが結婚してもずっと序列をつけられていくことを感じさせます」と語った。
『ケナは韓国が嫌いで』場面写真
韓国社会について、春木さんは「原作がベストセラーとなり話題となってから今年で10年。韓国社会はどのように変わったのかというと、就職難は依然として解決されていないですし、若者たちには息苦しさがあります。それは社会的な構造の問題を変えないと解決しないのに、『分極化」と言われる政治家がジェンダー対立を煽って、政治的に利用しているのです。兵役がある男性は女性より不利だ、女性に追い抜かれてしまう、といって女性優遇策を廃止して男性の支持を集めて当選したのが尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領です。一方、女性は保守政党には希望が持てないと、進歩政党に希望を託したのですが、大きな変化はなかったです」と解説。
これからの韓国と日本については、「韓国と日本は非常に似ているところがある。日本が選ばなかった未来や過去が、韓国にある、パラレルワールドのように思います。韓国の変化のスピードは日本より速い。お互いの政策を参照しながら、進んでいくといいと思います。互いに解決の道筋を学ぶことができると思います」と語った。
また、「成功のモデルはひとつではない。どこにもパラダイスはないという事を描きながらも、しないよりは、行動して後悔したほうがいいという映画のメッセージがよかったと思います」と映画の魅力を語り、トークイベントを締めくくった。
チャン・ゴンジェ監督来日情報
本作の公開初日となる3月7日に、チャン・ゴンジェ監督が来日がすることが決定。チャン監督は東京、大阪、京都の全5館の舞台挨拶に登壇する予定だ。
チャン・ゴンジェ監督
①日程:3月7日(金)18:00の回上映後 会場:ヒューマントラストシネマ有楽町 (東京都千代田区有楽町2-7-1 有楽町イトシア・イトシアプラザ4F)
②日程:3月8日(土)12:30の回上映後 会場:シネ・リーブル池袋 (東京都豊島区西池袋1-11-1 ルミネ池袋8F)
③日程:3月8日(土)14:50の回上映後 会場:新宿武蔵野館 (東京都新宿区新宿3-27-10 武蔵野ビル3F)
④日程:3月9日(日)13:00の回上映後 会場:テアトル梅田 (大阪市北区大淀中1-1-88 梅田スカイビルタワーイースト3・4F)
⑤日程:3月9日(日)15:50の回上映後 会場:京都シネマ (京都市下京区烏丸四条下ル水銀屋町620 四条烏丸下る西側 COCON烏丸3階)
ストーリー ソウル郊外で両親と妹と共に暮らす28歳のケナ(コ・アソン)。大学を卒業後、金融会社に就職し、毎日片道2時間かけてソウル市内の会社に通勤している。大学時代から長く付き合っている恋人のジミョン(キム・ウギョム)は、外国に行きたいと言うケナに反対し、「自分が就職したら支える」と伝えるが、そんなジミョンにケナは苛立ちを隠せない。だが、ケナの母は、裕福な家庭で育ったジミョンとの結婚を待ち望んでいた。一方、ケナが家族と暮らす小さな団地は老朽化が進み、再開発が予定されていたが、母は転居先の家の購入費用もケナに頼ろうとしていた。 ソウルの寒すぎる冬、地獄のような通勤、恋人との不透明な未来、仲は良いけれど古い価値観を持つ家族との日々――。ここでは幸せになれないと思ったケナは、ニュージーランドへの移住を決意する。
『ケナは韓国が嫌いで』 出演:コ・アソン チュ・ジョンヒョク キム・ウギョム イ・サンヒ オ・ミンエ パク・スンヒョン 監督・脚本:チャン・ゴンジェ 2024年/韓国/韓国語・英語/107分/カラー/原題:한국이 싫어서/日本語字幕:本田恵子 配給:アニモプロデュース (C) 2024 NK CONTENTS AND MOCUSHURA INC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://animoproduce.co.jp/bihk/ 公式X:@bihk_film
2025年3月7日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋ほか全国公開
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