映画『フロントライン』のキックオフイベントが4月10日、日本体育大学にて実施された。約350名が在籍する保険医療学部 救急医療学科の生徒を対象に開催された特別試写会の上映後には、劇中に登場するDMAT隊員のモデルとなった阿南英明医師と近藤久禎医師、増本淳プロデューサー、さらにサプライズで小栗旬と窪塚洋介が登壇した。

本作は、世界規模で人類が経験した新型コロナウイルスを事実に基づく物語としてオリジナル脚本で映画化した日本で初めての作品。物語の舞台は、2020年2月3日に横浜港に入港し、その後日本で初となる新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」。乗客乗員は世界56ヵ国の3,711名。横浜入港後の健康診断と有症状者の検体採取により10人の感染者が確認されたことで、日本が初めて治療法不明の未知のウイルスに直面することとなった。この状況下で〈最前線〉に駆けつけたのは、家族を残し、安全な日常を捨てて「命」を救うことを最優先にした医師や看護師たちだった。
この日のイベントは、本作の主人公・結城英晴のモデルとなった阿南医師、DMAT事務局長・仙道行義のモデルとなった近藤医師、映画『フロントライン』の企画・脚本を担当した増本プロデューサーが登壇し、それぞれの挨拶でスタート。
本作の感想について、阿南医師は「事実に基づいて作り上げていただいたと思います。船の中や外で本当にあった事を積み上げていただいて。僕は4回泣きました」と、近藤医師は「できた事を思い出せた半面、その後の課題についても焦点を当てていただいたと改めて感じました」とコメント。
増本プロデューサーは、本作へのリサーチ期間を経て「1年ぐらい取材させてもらって、当時パソコン画面越しだったので、初めて(阿南医師と近藤医師に)お会いしたのは撮影に入る直前でしたよね。今こうしてお二人と立たせていただけた事が光栄です」と完成した思いを語った。
続けて、「当時『THE DAYS』を撮影していて、10日ぐらい経った頃にコロナの影響で撮影が止まってしまいまして。どうにか続けたいと思って、日本で一番新型コロナウイルスに詳しい方にどうやって撮影したら安全なのかを聞きたいというのがあって阿南先生たちに話をうかがって。何度も取材をしていくうちに、撮影再会のための取材よりも、ダイヤモンド・プリンセス号でそんな事があったんだという話を聞いて当時の報道と違うところがあったので興味を持ちました。これは何らかのかたちで伝えられたら意味があるなと思ったのがきっかけです」と本作の企画について振り返った。
DMATの組織について、近藤医師は「ちょうど今年で発足から20年になりますが、被災地の都道府県の要請に基づいて、個々の医療機関からチームが派遣されるシステムになっています。実際に出動するのはDMATに登録しトレーニングを受けている医師や看護師などになります。災害時に現場に行き、被災地で頑張っていらっしゃる医療機関を支える、そのためであれば何でもやるという組織になっています」と説明。
DMATの活動をする上で最も大事にしている事を問われると、阿南医師は「それぞれの現場で困っていることが違うんですよね。違う困りごとを一瞬で拾い上げて支援のかたちを構築することを心がけてます。船の中で困っている人がいる、では私たちは何をするべきなのかを考えて動いていったということですね」と話した。
阿南医師をモデルにした結城を小栗が、近藤医師がモデルになった仙道を窪塚が演じた本作。そのキャスティングについて、増本プロデューサーは「取材を通してお二人からの言葉で素敵だなと思ったのが、災害時は何も決まってないから立場がどうとか、セクションがどうではなくて、できることは全部やるということでした。色んな人に批判もされるでしょう、それでも我々はやるんですとお話されていて、批判を恐れずに困っている人のために厳しい状況に立ち向かっていくキャラクターを誰にお願いするかとなった時に、批判を恐れずに自分が正しいと思う表現をしている人は小栗旬と窪塚洋介なんじゃないかと思ってオファーしました」と明かした。
小栗の印象について、阿南医師は「背が高くてスタイルが良くてカッコイイんですよね。芝居に入るとぐっと入り込んで集中されてたんですけどそれが魅力的で。小栗さんが劇中で使っていた聴診器は実際に僕のものなんです。診察のシーンは研修医にもこうやってほしいなと思うくらい、本当にすごい再現性でしたね」と絶賛した。
ここで、阿南医師から「今日は僕らの仲間が来ています!」という紹介と共に、小栗と窪塚がサプライズ登壇。生徒たちから歓声があがった。

小栗は今作のオファーについて「増本さんに脚本を読ませてもらった時に、取材されたものってどれくらいあるのか聞いたら、もの凄い分厚い資料が送られてきて、それを読んだらどれ位強い想いでこの作品を作りたいのかが伝わってきて、これは参加しないわけにはいかないと思いました」と回顧。

また、窪塚は「正直最初は警戒したんですけど、まるでドキュメンタリーのようなリアリティのある脚本であった事と、撮影の初日にキッチングローブが用意されていて、医療用の手袋じゃないんですかって聞いたら、実際に対応初日に間違えてキッチングローブが届いちゃったんですというのを聞いて、これは緻密な取材のもと作られているから背中を預けられるなと思いました」と裏話を交えつつ、本作への出演について明かした。

MCの「この二人でなければ成立しなかったですよね」という質問に、増本プロデューサーは「しないって言わなきゃいけない流れですよね(笑)」と笑いを誘いつつ、「小栗さんがこれはやるべきですよねって言ってくれたんですよね。芝居ができるとか、かっこいいのは十分知っているので、彼がそう言ってくれて相談して良かったと思いました。窪塚さんについては、芝居も存在感も素晴らしいし、ただね、ヤンチャじゃないですか(笑)彼から現場へのリスペクトを感じられたからやりたいと言っていただいて強く心を打たれました」と制作の裏側を明かした。
小栗は阿南医師について「この脚本に描かれているよりも実際はあくが強い方だからねと言われていたんですが、実際会ってみたら本当にあくが強い方たちで(笑)こういう方たちが熱意を持ってこの作品に向き合っていただけるなら大丈夫だろうなと思ったのが阿南先生への印象ですね。現場で段々熱くなっていく阿南先生の姿を見てしっかりやらなきゃと思いましたね」とコメント。

窪塚は「もし目隠しをしてこの現場に連れてこられたら、当時の現場のままだからクラスターの現場がもう一度再現されたみたいですって近藤先生が言っていたのが印象的でした。最前線にいた方がそう言うなら、ここで仙道として生きて仙道として芝居すればそう見えるんだという安心感がありました。“結城ちゃん”とバディで向き合っていく」と劇中の結城の呼び方についても触れ、実際に近藤医師が“阿南ちゃん”と呼んでいるという事で二人の医師の関係性も忠実に再現されていることを明かした。

撮影現場でのことを「クルーの触診をするシーンがあるんですけど、すごく安心しました。俺はその日の阿南先生の追体験をするようにやればいいんだと思って、心強かったです」と語った小栗。また、窪塚が「些細なことも含めてリアリティを追求したいと思ってたんですけど、DMATの方々も本当に命をかけて向かい合っているから、芯を食っているところ以外はこうしないといけないではなくて、お二人の生き様が僕たちの後押しになっていて」と話すと、小栗も「そうだね、人間味みたいなもの加えられて」と同調した。

DMATについても、小栗は「DMATは感染症チームじゃないのにこの危機を乗り越えたのがもの凄いことだと思いますし、自分もこれからも興味深く追いかけさせていただきたい」と敬意を表し、窪塚は「出てくる全ての人が素晴らしくて、名もなきヒーローというか、こういう人たちが守ってくれてるんだっていうのを感じました。人の想いやささやかな優しさでこの世界が満たされていたらいいなと思いますし、これから皆さんも救急救命士になっていくと思うんですけど、一人一人が主役で、大きな声ではないけどたくさんの期待を寄せられている」とメッセージを送った。

ここで会場に集まった学生からの質問に答えるQ&Aを実施。「この映画を作るうえで大切にしたことは何ですか」という質問に、小栗は「“やれることは全部やる”というのは持ちつつ、結城の役で自分があきらめたら全部終わっちゃうんだと思ったので“あきらめない”というのはテーマとして大事にしました」と回答。窪塚は「ぶれない事を大切にしていたはずなのに結城に激昂してぶれてしまう、この温度感やバディ感を大事にしました」と明かした。さらに、この会場に集まった生徒を目の前にして、改めて「こんなにたくさんの未来のヒーローたちがまっすぐ生きてるんだという事に息をのんだというか、胸がつまる思いがあります。そういう人達が支えてるんだと思って、応援してます」と熱い言葉を送った。
そして、「大学生活がこれから始まるんですけど、新しいことを始める時に心がけていることは」との質問に、窪塚は「自分軸で歩いてきたなと思うので、それで今一番幸せだと思います」と、小栗は「自分に期待しないようにしていて。元々自分に期待するタイプだったんですが、練習したこと以上のことって中々できないと思いうんです。日々できることをするというのをチャレンジするときは心がけてます」とエールを送った。
最後に窪塚は、「6月13日からこの映画が公開になります。この頃こういう風に生きてたなとまだちょっと生々しい部分も残ると思うんです。こぼれ落ちちゃったものもあるけれど、この映画を通してそれも全て前に進む力にかえて、今日が一番若いと良く言いますから、皆さんの力もお貸しください」と、小栗は「これからの未来を作っていく皆さんに初めに見てもらえた事が非常に良かったと思います。洋介くんと言葉を借りて、僕たちも頑張りますので、皆さんも一緒にがんばっていきましょう」とそれぞれ挨拶し、イベントを締めくくった。

『フロントライン』
出演:小栗旬 松坂桃李 池松壮亮 森七菜 桜井ユキ 美村里江 吹越満 光石研 滝藤賢一 窪塚洋介
企画・脚本・プロデュース:増本淳
監督:関根光才
製作:「フロントライン」製作委員会
制作プロダクション:リオネス
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C) 2025「フロントライン」製作委員会
公式サイト:FRONTLINE-MOVIE.JP
公式X:@frontline2025
6月13日(金)全国公開