【レポート】映画『愛しのアイリーン』新井英樹らが本作の背景として描かれる社会制度などにフォーカスを当てたトークを披露

愛しのアイリーン

池松壮亮が主演をつとめ話題となったテレビ東京・ドラマ25「宮本から君へ」の原作者として今再び脚光を浴びる鬼才・新井英樹。その初ドラマ化に続き、伝説的コミック『愛しのアイリーン』が新井作品史上初の映画化を果たし、全国公開中である。
熱狂的なファンを持つ漫画の実写作品として注目を集める中、公開を記念して原作者・新井英樹と、『原発危機と「東大話法」』などの著作で知られる「男装をやめた」東大教授・社会生態学者の安冨歩、美術家・ドラァグクイーンのヴィヴィアン佐藤との、本作の背景として描かれる社会制度、ジェンダーやセクシュアリティ、差別などにフォーカスしたトークイベントが開催された。

本作でも描かれる“男性社会における生き辛さ”“息苦しさ”について、安冨は「男性に限らず女性も日本では生き苦しい。その根源はどこにあるのか?映画をご覧になった方はよく分かると思います」と映画に描かれる背景について感想を語った。
作品を描いた当時を新井は「日本映画で言えば今村昌平さんの映画のような、女性の強さに憧れるところがあって、それを漫画で描くことが出来ないか、女性のたくましさには男性は勝てない、と思って書いた漫画です」と振り返る。また新井は「最近映画を観た人の感想を聞くと、今は男性よりも女性のほうが生き苦しいんじゃないか?と感じている」と連載当時と今の違いを分析、映画の女性の描かれ方について「映画の登場する女性キャラクターは脇に至るまで全て原作通りです。パチンコ屋の良江さんや、岩男が片想いを寄せる吉岡愛子など自分としては物凄く好きなキャラクターで、吉岡愛子に関しては自分が描いた女性キャラクターの中でトップ2に入るくらい好き。あの人たちの描かれ方が酷い、と言われちゃうのは、表現の仕方に問題はあるかもしれませんが心外で、凄く素敵だと思って描いていた」と当時の気持ちを語った。

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当時の社会背景から安冨は「連載当時、男性だけじゃなく女性の生き苦しさも描く上で、それを乗り越える力のある女性はフィリピンの女性“アイリーン”を登場させなければ成立しなかったのかもしれない」と分析し、また見えない格差や差別について「90年代はまだインターネットが普及しておらず、見えないところが見えないままでした。その後ネット社会になって、特に劇中のツルが体現する、構造的な差別意識や暴力性は、今はSNSですぐに可視化される時代。連載当時はその見えない部分を浮き彫りにするには、フィリピンの女性を登場させるしかなかったのかもしれませんね」と当時の社会と作品の必然性を語り、「かもしれない。たまたまなんですけど(笑)」と新井がうなずく場面も。
安冨から「女性を“生産性があるない”でしか見ることが出来ない日本の田舎の“暴力性”が、映画のラストにツルの出産シーンで描かれていましたが、今もぼんやり日本で続いていることが不気味ですね」と語ると、新井から「連載当時、青年誌では愛のあるセックス描写をうっとりする画で描かれていたんです。でも自分は自己嫌悪がすごいタイプなので、それを滑稽だと思ってしまうところがあって、この漫画を恋愛漫画として描くことで読者にこれでもあなたたちは“愛”って呼びますか?と投げかけたかった」と作品についての想いを赤裸々に語った。
また自身の作品と映画化された本作について新井から「原作の漫画は映画とはラストが違います。アイリーンのその後を描いていてある種“ハッピーエンド”になっています。幸せっていうのは、安冨さんの本から引用させてもらえば“何も起こらないこと”。でも愛って能動的なことで何かを起こす行為だったりするから、幸せをかき乱すのは愛だったりする」と本作のテーマについて語った。

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スケジュールの都合上、遅れて登壇することになったヴィヴィアン佐藤から映画について「原作漫画を20年前くらいに読んでいて、どんな映画になるのか、興味深かったです。映画で見るとキャラクター同士の“二項対立”構造が強調されていましたね。最近、地方の田舎の町おこしに仕事をしていまして、もうシャッター商店街を通り越して、“サラ地”商店街になりつつある。パチンコ屋ですらつぶれているのが現状。映画に出て来る畑も今はサラ地になっていると思います」と作品に描かれる田舎の現状を交えて語った。

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最後に、新井作品が次々で映像化されることについて安冨から「今私たちが必要としているものが、新井作品に描かれているんだと思います」と語り、新井からは「自分も何でか知りたいです(笑)でも今はそういう流れなんだと思います。その理由よりもとにかく今は映画を観てほしいという気持ちです。ぜひよろしくお願いします!」とイベントを締めくくった。

※吉田恵輔監督の「吉」の正式表記は「土よし」です。

作品タイトル:『愛しのアイリーン』
出演:安田顕 ナッツ・シトイ 河井青葉 ディオンヌ・モンサント
福士誠治 品川徹 田中要次/伊勢谷友介/木野花
監督・脚本:吉田恵輔
原作:新井英樹「愛しのアイリーン」(太田出版刊)
音楽:ウォン・ウィンツァン
主題歌:奇妙礼太郎「水面の輪舞曲(ロンド)」 (WARNER MUSIC JAPAN/HIP LAND MUSIC CORPORATION)
企画・製作:河村光庸
製作:瀬井哲也 宮崎伸夫
エグゼクティヴ・プロデューサー:河村光庸 岡本東郎
プロデューサー:佐藤順子 行実良 飯田雅裕
製作幹事:VAP
制作協力プロダクション:SS工房
(VAP/スターサンズ/朝日新聞社)
レイティング:R15+
企画・制作・配給:スターサンズ

公式サイト:http://irene-movie.jp/
コピーライト:(c)2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ

TOHOシネマズ シャンテ他にて大ヒット上映中!

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