20世紀の世界文学を揺るがした革命的なムーヴメント<ヌーヴォー・ロマン(新しい小説)>の代表的作家として知られる、アラン・ロブ=グリエの幻の映画監督作品を集めた特集上映「アラン・ロブ=グリエレトロスペクティブ」を、シアター・イメージフォーラムほか全国にて開催、初日が11月23日(金・祝)に決定した。
1953年に最初の長編小説『消しゴム』でデビュー以来、近代以降常識とされていた既存の枠組みを解体する小説を次々と発表し、1960年、アラン・レネ監督『去年マリエンバードで』(第22回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞)のオリジナル脚本の執筆を契機に映画界にも参入。63年に『不滅の女』で映画監督デビューを果たし、倒錯的なエロティシズムを描き出す諸作で、作品を発表するたび、大きな注目を集め、圧倒的な人気を誇った。しかし、その過激でスキャンダラスな描写のせいか、ヨーロッパ以外の地域ではほとんど上映の機会に恵まれなかった。
今回のレトロスペクティブでは、ルイ・デュリック賞を受賞した監督デビュー作『不滅の女』(63)、ジャン=ルイ・トランティニャン演じる麻薬の運び屋のドタバタ劇をメタフィクションとして描いた『ヨーロッパ横断特急』(66)、ボルヘスの短編「裏切り者と英雄のテーマ」を下敷きにした『嘘をつく男』(67)、めくるめくエロティックな幻想を色彩豊かな映像で表現した初のカラー作品『エデン、その後』(70)、センセーショナルな内容によりヨーロッパ各国で上映禁止となったアニセー・アルヴィナ主演作『快楽の漸進的横滑り』(74)、ルネ・マグリットの同名の絵画をモチーフにした不条理サスペンス『囚われの美女』(83)の6作品をラインナップ。『囚われの美女』以外の5作品は、劇場正式初公開となる。
今回解禁されたポスタービジュアルでは、アラン・ロブ=グリエのポートレイトを中心に据え、『エデン、その後』『快楽の漸進的横滑り』『囚われの美女』の場面を切り取った写真が配置され、不穏な空気が醸し出されるものが完成。また、予告編では「誰かが「私は嘘をつく」といったら、彼または彼女のいうことはすでに真偽を超えている。ロブ=グリエの映画の面白さは、あくまでそのとらえどころのなさにある。しかも、その画面が曖昧とはとても思えぬほど鮮明なところに、つきぬ魅惑が脈うっている。」という映画評論家・蓮實重彦氏のコメントとともに上映6作品のライナップを紹介している。
また、アラン・ロブ=グリエの小説作品は、現在「消しゴム」(中条省平訳、光文社古典新訳文庫)、「迷路の中で」(平岡篤頼訳、講談社文芸文庫)、「覗く人」(望月芳郎訳、講談社文芸文庫)が好評発売中。さらに、没後10年を記念し白水社より「反復」(平岡篤頼訳)の復刊が決定。11月より発売開始予定となっている。
22年8月18日、フランス、ブレストに生まれる。
工場での強制労働、政府発行の経済誌の編集、人口授精センターなど様々な職業を経て、農業技師として各国のフランスの植民地に滞在。51年、フランスに帰国する船中で『消しゴム』(※1)を書き始め、53年にエディシオン・ド・ミニュイ社より刊行。ロラン・バルト、ジョルジュ・バタイユに絶賛され、新たな文学運動<ヌーヴォーロマン>の旗手として一躍人気作家になると、続けざまに『覗く人』(55、※2)、『嫉妬』(56)、『迷路の中で』(59、※3)を発表。60年、アラン・レネ監督の勧めで『去年マリエンバードで』オリジナル脚本を執筆、前衛映画の金字塔として今なお高い評価を得る。そのとき採用されなかった脚本をもとに、63年『不滅の女』を自ら制作、映画監督としてもデビューする。同年、過去の小説を痛烈に批判した批評集『新しい小説のために』を発表、理論的にも<ヌーヴォー・ロマン>の代表格となり、その後も精力的に、執筆・映画製作を行う。1961年には、大映製作、市川崑監督の日仏合作映画『涙なきフランス人』の脚本のオファーを受け執筆、来日するも製作は頓挫し、幻の映画となった。2004年、アカデミー・フランセーズの会員に選出される。2008年2月18日、心臓発作で死去。享年85。
※1)『消しゴム』…光文社古典新訳文庫より発売中。中条省平訳、2013年刊。
※2)『覗く人』…講談社文芸文庫より発売中。望月芳郎訳、1999年刊。
※3)『迷路の中で』…講談社文芸文庫より発売中。平岡篤頼訳、1999年刊。
上映作品
『不滅の女』*劇場初公開
イスタンブールに休暇でやってきた男は、白い車を乗り回す謎の美女と出会う。“夢の国”トルコでのアバンチュールを楽しむが…。従来の「劇映画」の概念を大きく逸脱した過激な語り口が世の驚愕と憤怒を同時に招来した、いまだ「新しさ」に満ちた記念すべき監督デビュー作。
出演:フランソワーズ・ブリオン、ジャック・ドニオル=ヴァルクローズ、カトリーヌ・ロブ=グリエ
1963年/フランス=イタリア=トルコ/モノクロ/スタンダード/101分
原題:L’IMMORTELLE
コピーライト:(c)1963 IMEC
『ヨーロッパ横断特急』*劇場初公開
パリからアントワープへと麻薬を運ぶ男の波乱万丈な道中を多重なメタで構築し、“ヨーロピアン・アバンギャルドの最重要作品”と絶賛され、公開時ヒットを記録。スリラー映画の枠組みを借りてシリアスとコミカル、嘘と真実、合理と非合理の境界を軽やかに行き来する快作。
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、マリー=フランス・ピジェ、クリスチャン・バルビエール
1966年/フランス=ベルギー/モノクロ/ヴィスタ/95分
原題:TRANS-EUROP-EXPRESS
コピーライト:(c)1966IMEC
『嘘をつく男』*劇場初公開
ナチス傀儡政権下のスロバキア共和国。戦乱にあけくれる小さな村に、レジスタンスの英雄ジャンの親友だと名乗る男が現れる…。ボルヘスの短編「裏切り者と英雄のテーマ」を下敷きに、L・ピランデッロへのオマージュを込めつつ、「物語」の地平のかなたへ観るもの全てを誘う。
出演:ジャン=ルイ・トランティニヤン
1968年/フランス=イタリア=チェコスロバキア/モノクロ/スタンダード/95分
原題:L’HOMME QUI MENT
コピーライト:(c)1968IMEC
『エデン、その後』*劇場初公開
カフェ・エデンにたむろするパリの学生たち。倦怠と退廃、リビドーが充満するコミュニティに、突如現れた男が話す、知らない遠い国の話…。豪奢に浪費される極彩色、儀式のようなSM遊戯。“『不思議の国のアリス』と『O嬢の物語』の恐るべき邂逅“と評された初のカラー作品。
出演:カトリーヌ・ジュールダン(『あの胸にもう一度』)、ピエール・ジメール、リシャール・ルドウィック
1970年/フランス=チェコスロヴァキア=チュニジア/カラー/ヴィスタ/98分
原題:L’EDEN ET APRES
コピーライト:(c)1970 IMEC
『快楽の漸進的横滑り』*劇場初公開
ルームメイト殺しの容疑で逮捕された美しい女アリス。心臓にハサミが突き刺さっている被害者の体には、書きかけの聖女の殉教の絵。一体なにが…?モラルも常識も超越したセンセーショナルな内容により、各国で上映禁止、フィルムが焼かれる事件まで発生した問題作。
出演:アニセ―・アルヴィナ、ジャン=ルイ・トランティニヤン、マイケル・ロンズダール、イザベル・ユペール
1974年/フランス/カラー/ヴィスタ/106分
原題:GLISSEMENTS PROGRESSIFS DU PLAISIR
コピーライト:(c)1974 IMEC
『囚われの美女』
場末のナイト・クラブ。なまめかしく踊るブロンドの美女を、男が見つめている。男の名はヴァルテル。地下組織で情報の運び屋をしている。シュルレアリスム画家ルネ・マグリットの多数の絵画をモチーフに、幻想と官能が交錯する不条理サスペンス。日本で唯一の劇場公開作。
出演:ダニエル・メグイシュ、ガブリエル・ラズール、シリエル・クレール(『婚約者の友人』)、ダニエル・エミリフォーク
1983年/フランス/カラー/ヴィスタ/85分
原題:LA BELLE CAPTIVE
コピーライト:(c)1983 ARGOS FILMS
配給・宣伝:ザジフィルム
公式ツイッター:https://twitter.com/ARGfilms_jp
公式サイト:http://www.zaziefilms.com/arg2018/
11/23(金・祝)より、シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー!