映画『砂の器』シネマ・コンサートが4月29日に大阪、30日に東京で開催される。シネマ・コンサートはセリフや効果音はそのままに、音楽パートを映画の上映にあわせオーケストラとピアノで生演奏するコンサート。『砂の器』シネマ・コンサートは2017年の初演以来、チケットの完売が続き今回で4度目の再演となる。
1974年に公開された同作品で、西蒲田警察署の刑事・吉村弘を演じた森田健作、和賀英良(加藤剛)の愛人、高木理恵子を演じた島田陽子に撮影当時のお話を伺った。この日は、映画『夜霧の訪問者(1975年公開)』の共演以来の再会だという。『砂の器』での両者の接点は「紙吹雪の女」。犯行時の血痕のついたシャツの切れ端を、和賀英良に依頼された高木理恵子(島田)が列車の車窓から捨てる。和賀を追う吉村刑事(森田)が、線路沿いを這いずり回りながら、その証拠品を探し出す、映画前半の山場だ。
『布っきれを探すほんの数秒のシーンなんですが…』 と森田が撮影現場を語る。朝、リハーサルをして待機し続け15時頃になると終了し、本番を撮らない。これが3日続いた。自身の演技のどこが駄目なのか?連日の待機に森田のフラストレーションはつのりにつのり、監督に尋ねた。すると背景の山にある雲が気に入らないと返される。『当時の僕は青春ドラマに出演する事が多かった。でも、ここでの吉村刑事には青春ドラマの張り切りボーイの森田健作はいらない。捜し続けていて、半ばやけっぱちになっている、そんなイライラしているカットを僕に表現させるために、あの短いシーンに3日も引っ張ったんですね』と野村監督の演出を振り返る。
島田からみた野村監督の印象はどうだったのであろうか。島田が撮影に参加したのは高校を卒業し女優業をスタートさせた頃。恋人の和賀英良に捨てられ、非業の死を遂げるという難しい役を演じた。撮影現場は島田にとって『楽しいことはなにもなかった(笑)!もうたいへんなだけで。難しかったですよ。ただ、いい意味でしごかれたので、自分の成長にはものすごく役に立ちました』と話す。余計なことを考えず、監督の指示通り演じる事に徹したという。
そんな島田も、唯一監督に直談判(?!)した事がある。和賀と過ごす自室の中、理恵子の胸が映るシーンだ。『わたし胸が大きくないのでカットしていただけないでしょうかってお願いしたんです。そしたら監督が”幸薄い女性の胸が大きかったらおかしいでしょ”って。そんな答えが返ってきて、私、もう何も言えなくなって(笑)』。これは野村監督にとっても想像外のお願いであった事は想像に難くない。あのシーンの撮影には、実はそんなやり取りがあったのだ。
森田も島田も野村芳太郎監督と、脚本の橋本忍から出演のオファーを受けた。野村と橋本の「やるんだ!」という並々ならぬ熱気を感じたと、ふたりは口をそろえる。
当時青春ドラマ出演が中心で、テンションが高い役が多かった森田にとっては初めてのシリアスな役。しかも大作の映画だ。島田と同様、演技は監督に身を委ねようと決めたが、刑事役は演じたことがない。撮影に入るにあたって森田は、奇しくも映画の現場となった蒲田署で刑事をやっていた父親に相談した。映画やテレビのようにかっこいいものじゃない。靴もすり減るし、スーツもよれよれになる。1週間ぐらい蒲田署に行って刑事の立ち振る舞いを見て来い!と教わり、実際に蒲田署に行って現場の刑事から様々な事を学んだ。
『こういったらおかしいけど、普通の人たちなんですよ。それがものすごく勉強になった。だから芝居のときもかっこつけようとは思わなかった』と当時の役作りのエピソードを懐かしげに話す。
二人の話は、和賀英良を演じた加藤剛にも及んだ。森田は撮影中、加藤から「大岡越前をやっているのに、どうしてあんな役をやるのか?」という手紙がファンから来た事を聞かされた。『でも、剛さんだからこそ和賀英良という人間を演じられたのでは』と話すと、島田は加藤剛を、見る側が感情移入できるスキを作ってくれているという。
『ぐっと抑えた演技をしてくださっているから、私たちもいくらでも感情移入できる。その辺のさじ加減が、舞台俳優もやられている加藤さんならではと思います』と、共演者としての視点から、加藤剛の演技を評する。
森田や島田にとっての『砂の器』とは?最後にふたりに伺った。
島田は昨年、北九州市の松本清張記念館で開催されたイベントに登壇し、大勢のお客さんと一緒に映画を観た。『四季を撮影するために時間も予算もかけ、お芝居もすごく時間がかかっている。最近はここまでの大作が作られてないと思います。これこそが映画の醍醐味だなと改めて感じました。私にとって宝物のような作品です』と称える。
『実は公開後に、劇場で何度か見に行っているんですよ。自分が出ているのを忘れて、ストーリーに入り込んでしまう。何回見ても涙します。特に最後の音楽が盛り上がるところで、それまでの全てのシーンを思い出す。音が自分の身体の中に入ってくる。あの作品に出られたことは最高に幸せでした』と出演できた喜びを噛みしめるように話す森田だが、ひとつだけ、これは違うな?と思う場面があるという。政治家を演じる佐分利信が娘の婚約者である和賀に、花束を渡すシーンだ。『花束がせこい!政治家はあんな花束は絶対に贈りませんよ。もっとも、これは政治家になって気がついたんですけどね』と笑う。
昭和を代表する名作、映画『砂の器』シネマ・コンサートは、平成最後の2日間、大阪と東京で開催される。コンサートのチケットは各プレイガイドにて発売中。
映画『砂の器』シネマ・コンサート2019/公演概要
☆大阪公演
日時:2019年4月29日(月・祝) 開場15:00/開演16:00
会場:大阪・フェスティバルホール
チケット価格(税込/全席指定):S席9,800円/A席7,800円 ※未就学児入場不可
☆東京公演
日時:2019年4月30日(火・祝) 開場16:30/開演17:00
会場:東京・Bunkamura オーチャードホール
チケット価格(税込/全席指定):9,800円 ※未就学児入場不可
シネマ・コンサート上映映画:
上映作品:映画『砂の器』(松竹・橋本プロ=提携作品/1974年10月19日劇場公開)
上演時間:2時間23分 (第一部:紙吹雪の女 87分 / 第二部:宿命 56分)
途中休憩:20分あり /上映作品は2005年リマスター版
原作:松本清張/監督:野村芳太郎/脚本:橋本忍、山田洋次
撮影:川又昻/音楽監督:芥川也寸志/作曲:菅野光亮
出演:丹波哲郎/加藤剛/森田健作/島田陽子/山口果林/加藤嘉/緒形拳/佐分利信/渥美清 他
シネマ・コンサート出演:
指揮:竹本泰蔵
演奏:日本センチュリー交響楽団(大阪)/東京交響楽団(東京)
ピアノ:近藤嘉宏
コンサートディレクター:和田薫
企画・制作:松竹/松竹音楽出版/PROMAX
制作協力:東京音楽工房
映画『砂の器』シネマ・コンサート/公式サイト:http://promax.co.jp/sunanoutsuwa/
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