2018年秋からスタートした「はみ出し者映画」の特集上映イベント、「サム・フリークス」の第3回目「サム・フリークス Vol.3」が、2019年1月20日に渋谷ユーロライブにて開催が決定した。今回は社会と個人の関わりの中で作っていくセーフティ・ネットについての映画を2本立てで上映する。
1本目は母子家庭を取り巻く厳しい現実と、居場所のない少年と大人達の交流を描いたブライアン・クラーノの長編デビュー作『バッグ・オブ・ハンマーズ』の日本初上映。
2本目はケン・ローチがピラール・パディージャとエイドリアン・ブロディを主演に迎えて移民労働者達の労働条件改善運動を描いた『ブレッド&ローズ』の待望の再上映。
どちらもこの機会を逃すとなかなか劇場では観ることができないであろう貴重な作品で、今後の上映&ソフト化の予定もなく、非常に貴重な機会となっている。また、今回も有料入場者1名につき250円が虐待を受けたり貧困下にある子供達への学習支援&自立支援として役立てられる。
公式サイト:http://pikao.hatenablog.com/entries/2018/09/19
開催概要
【日時】2019年1月20日(日)
【会場】ユーロライブ(渋谷)
【タイムテーブル】
12:50~ 当日券販売開始
13:15~ 開場
13:30~『バッグ・オブ・ハンマーズ』上映(日本初上映)
14:55~ 休憩
15:10~『ブレッド&ローズ』上映(16:55上映終了予定)
【チケット情報】
前売り券は胃に穴が開くぐらいの資金繰りによって特別価格1371(胃酸ない)円でPeatixにて販売中です。
チケット販売サイト:http://peatix.com/event/404328
当日券料金:2本立て1500円
※入れ替えなし
※全席自由席
本イベントはすべての子供達が社会から孤立することなく暮らしていけるようになることを目的とした学習支援や自立支援の為に、有料入場者1名につき250円を「認定NPO法人 3keys」(http://3keys.jp/)へ寄付いたします。後日、「マフスのはてな」(http://pikao.hatenablog.com)において寄付の実施をご報告いたします。
※当日券は当日の12時50分より会場受付にて販売いたします。
※前売り券について※
開場は13時15分です。整理券等への引き換えの必要はございませんので、劇場への入場時にPeatixのチケット画面、もしくは予め印刷したものを係員にご提示お願いします。入場順序に関しては、前売り券→当日券の整理番号順となります。場内は全席自由席となっております。入金後のキャンセルは承りかねますのでご了承ください。
『ブレッド&ローズ(原題:Bread And Roses)』
(2000年、監督:ケン・ローチ)/DVD上映(日本語字幕付き)
2000年 カンヌ国際映画祭 パルム・ドール ノミネート
出演:ピラール・パディージャ、エイドリアン・ブロディ(『戦場のピアニスト』)、エルピディア・カリーロ(『プレデター』)、ティム・ロス、ベニチオ・デル・トロ、ロン・パールマン
イギリスの社会主義映画作家ケン・ローチが初めてアメリカで手がけた『ブレッド&ローズ』は、90年代に南カリフォルニアで起こった労働者のストライキの実話に基づいている。
題名は1912年のマサチューセッツでの移民労働者による闘争のスローガンに由来しているが、サッチャー政権下のロンドンで炭鉱労働者のストライキをゲイの人々が支援した姿を描いた『パレードへようこそ』でも同名の労働運動歌を謳いあげる場面があったことは記憶に新しい。どちらもパン(生活)のために働き、バラ(尊厳)を持たない人々の物語である。
ローチにとって労働とは尊厳だ。一貫して労働者階級の日常と社会の不正を描いてきた彼は、本作ではメキシコからの不法移民の目を通して、米国の実情を語る。法律で保護されない移民労働者がアメリカン・ドリームを達成するためには正当な権利すら奪われてしまう経験に焦点を当てるのだ。そのなかで不当に搾取される人々を見捨てず、ひとつに組織化する労働組合活動家に彼は自身のタフネスな姿勢を重ねているのである。
『バッグ・オブ・ハンマーズ(原題:A Bag Of Hammers)』
(2011年、監督:ブライアン・クラーノ)/Blu-ray上映(日本語字幕付き)
2011年 SXSW映画祭 スポットライト部門 観客賞ノミネート
出演:ジェイソン・リッター(『ザ・イースト』)、ジェイク・サンドヴィグ(『小悪魔はなぜモテる?!』)、レベッカ・ホール(『結婚まで1%』)、アマンダ・セイフライド(『マンマ・ミーア!』)
『バッグ・オブ・ハンマーズ』は、カリフォルニアのバーバンクで他人の葬式で駐車サービスのスタッフを装って、弔問客の車を盗んでは売り捌くことで生計を立てている親友ふたりの日常を描いたブロマンス的なコメディとして進行する。しかし、彼らが貸し出している借家に越してきた失業中の情緒不安定なシングルマザーの家庭で、12歳の息子に対してネグレクトが行われていることが明らかになると、異なる主題が浮かび上がってくるだろう。
事態が深刻さを増したとき、無責任に生きてきた彼らは社会のセーフティ・ネットから疎外された少年の世話をすることを選択するのだ。『万引き家族』より約7年先んじて同様のテーマを取り扱っていると言えるが、監督のブライアン・クラーノは家族のダイナミクスを掘り下げ、伝統的なあり方ではない柔軟な型を提示する。
その意味で、本作で男性同士のプラトニックな関係を描いた彼が、レベッカ・ホールを再び起用した続く第二作『結婚まで1%』では、子を持つことへのお互いの認識にズレが生じていくゲイのカップルを登場させていることは注目に値する。
そのうちのひとりは実際の彼のパートナーなのだ(もう片方はホールのパートナーである)。そう考えれば、クラーノの進歩的なヴィジョンの重みが増すはずだ。
これまで本上映会では抑圧的で硬直した社会のなかで置き去りにされたはみ出し者がいかにして生き抜いていくのかを見据えてきたが、前回、特集した『シュガー』では忘れがたい重要なセリフがあった──「人に手を差し伸べない奴は生きている価値がない」。そのことを踏まえると、今回この2作品を上映することは、それぞれひとつの回答を表明しているかのようで意義深いものがある。
“お金のねえ弱者に食べ物や住むとこ着るものを提供できて初めて社会はセイホー!って言ったらホー!って返ってくる/だからみんなで変えてくー”(Deji「俺たちの未来 ft. Meteor」)
(映画ライター・常川拓也)
主催:岡俊彦
http://pikao.hatenablog.com