「真摯な痛み」シリーズの後継イベントとしてスタートした「はみ出し者映画」の特集イベント「サム・フリークス」が9月に続いて2ヶ月連続開催。10月20日(土)に渋谷ユーロライブで特集イベント「サム・フリークス Vol.2」が開催となる。今回はイタリアとアメリカの青春映画の名匠の作品が上映される。上映作品は『キス&ハグ』(日本初上映)と『シュガー』(日本初上映)の2本立てだ。
1本目は『人間の値打ち』『歓びのトスカーナ』『ロング,ロングバケーション』といった作品で国際的な評価も高まってきているパオロ・ヴィルズィの最高傑作の一つ『キス&ハグ』。2本目は『ハーフネルソン』でライアン・ゴズリングをアカデミー賞主演男優賞ノミネートまで押し上げ、来年はブリー・ラーソン主演のマーベル映画『キャプテン・マーベル』が公開されるアンナ・ボーデン&ライアン・フレックの隠れた傑作『シュガー』。どちらも日本初上映で、今後のソフト化の予定もない作品のため、この機会にぜひチェックして頂きたい。なお、今回も有料入場者1名につき250円が虐待を受けたり貧困下にある子供達への学習支援&自立支援として役立てられる。
特集イベント「サム・フリークス Vol.2」 概要
日時:2018年10月20日(土)
会場:ユーロライブ(渋谷)
タイムテーブル
12:45~ 当日券販売開始
13:00~ 開場
13:15~『キス&ハグ』上映(日本初上映)
14:57~ 休憩
15:10~『シュガー』上映(日本初上映/17:04上映終了予定)
前売り券:1351円(※Peatixにて販売中)
チケット販売サイト:https://peatix.com/event/404260
当日券料金:2本立て1500円
※入れ替えなし・整理番号制
※全席自由席
主催:岡俊彦
公式サイト:http://d.hatena.ne.jp/pikao/20180727
本イベントはすべての子供達が社会から孤立することなく暮らしていけるようになることを目的とした学習支援や自立支援の為に、有料入場者1名につき250円が「認定NPO法人3keys」(http://3keys.jp/)へ寄付され、後日「マフスのはてな」(http://d.hatena.ne.jp/pikao/)において寄付の実施が報告される。
上映作品コラム
『キス&ハグ』は『カテリーナ、都会へ行く』『見わたすかぎり人生』と並ぶパオロ・ヴィルズィの最高傑作。それまでも『Ovosodo』のような青春映画の傑作を発表していたパオロ・ヴィルズィだが、ここでは初期作品の半自伝的な作風から脱却し、もっと広い視野に立った群像劇コメディとして映画を手際良くまとめ上げている。
『人間の値打ち』『歓びのトスカーナ』『ロング,ロングバケーション』といった作品で国際的な評価も高まってきている彼の活躍の原点は本作にあるといっても過言ではないだろう。「I Will Survive」な気概が根底を貫く最高のクリスマス映画。次作『My Name Is Tanino』はブレイク前のレイチェル・マクアダムスも出演しているインターナショナルな青春コメディで、パオロ・ヴィルズィはさらなる高みに到達するのだった。
『シュガー』は現在のアメリカにおける最良の青春映画作家コンビであるアンナ・ボーデン&ライアン・フレックの第2作となる青春ドラマ。彼等のフィルモグラフィー的には『ハーフネルソン』と『なんだかおかしな物語』の間に挟まれた(キャスト的には)地味な作品だが、アメリカのプロ野球界における移民達の活躍と挫折を描きながら、誰もが感じるであろう人生における普遍的な感情を紡ぎ出した見事な傑作だ。本作でタイトルロールの「シュガー」を演じたアルゲニス・ペレス・ソトは実人生においても映画と同様に「挫折した野球選手」であり、本作に出演するまでは演技経験のない完全な素人だったとのこと。アンナ・ボーデン&ライアン・フレックにとって初の大作となる来年公開予定のマーベル映画『キャプテン・マーベル』にも彼は出演しているそうなので、今後のさらなる活躍にも期待したい。『キス&ハグ』と『シュガー』、どちらもはみ出し者の「生きる力」について描いた物語である。
(主催:岡俊彦)
「変わり者や少し精神に異常をきたしている人を引き寄せる体質なのかもしれない」とパオロ・ヴィルズィは自身を語るが、彼の本分は、陽気で賑やかなイタリア式喜劇にある。
『キス&ハグ』は、赤の他人を要人と取り違えるニコライ・ゴーゴリの小説『検察官』から着想を得たコメディ。借金まみれになってトスカーナの片田舎でダチョウ牧場を立ち上げた集団の話と、妻子から去られレストラン経営も壊滅的な状況に陥った男の話とがクリスマスに交差する群像劇だ。自殺しようとするも死に損なったレストラン経営者の男は、助成金の融通のために視察へやってくる予定の同姓同名の地方議会議員と勘違いされ、そのまま牧場の人間たちから過剰な歓待を受けてしまうのだ。現在のイタリア映画界を代表する人情喜劇の名手は、塞ぎ込んだナイーヴな人間を騒々しい一家(世界)に入り込ませることで、いわばそのようにして人生の袋小路から彼を引きずり出すことで、喧騒の果てにおかしみを見出し、彼らの間で上機嫌が伝染していく様を鮮やかな手つきで描いてみせている。グロリア・ゲイナー「I Will Survive」で締めくくる終幕の爽やかな感動は、私たちを充実感で満たしてくれるだろう。
『シュガー』は、ドミニカのスラムで生まれ育ったマイナーリーグの投手“ シュガー”が、家族の期待を一身に背負ってメジャーでスターになるべく奮闘する姿を描いた野球映画として進行する。しかしこの映画は、インド人初のメジャーリーガーを誕生させた米国のスポーツ・エージェントの実話を基にしたディズニー産野球映画『ミリオンダラー・アーム』を裏返したような趣がある。演技経験のない実際に野球を挫折した者を起用した本作からは、アメリカン・ドリームを掴んだ一握りの移民の物語ではなく、そこからこぼれ落ちた移民の語られざる物語が立ち上ってくるのだ(題名にはかつて米国がラテンアメリカを植民地にしていた際に黒人奴隷に作らせていたサトウキビの意味合いがある)。そして同時に、不安や重圧と戦う“甘ちゃん”を通して、野球や移民の経験の枠を超えた誰もが抱いたことのある普遍的な憂鬱の領域にまで踏み込んでいる。私たちが人生の袋小路に陥ってしまったと感じるようなとき、このような成功至上主義を脱却した個人の生き方(幸福)や精神的健康を提示する作品の存在は貴重だ。マーベルのプロデューサーであるケヴィン・ファイギもアンナ・ボーデン&ライアン・フレック監督コンビの現実的で公正な性格描写を称賛し、彼らをブリー・ラーソン主演の『キャプテン・マーベル』に登用した。必見の隠れた傑作である。
”忘れそうだったありがたみ/皆必死に行くどこかに/あるのか意味と思ったけどさ/生きるため生きるのも悪くないさ/そう 捨てたもんじゃないさ”(Meteor「バカばっか」)
(映画ライター・常川拓也)
『キス&ハグ(原題:Baci E Abbracci)』
出演:フランチェスコ・パオラントーニ、マッシモ・ガンバッチアーニ、パオラ・ティッツィアーナ・クルチアーニ(『見わたすかぎり人生』)
(1999年、監督:パオロ・ヴィルズィ)
DVD上映(日本語字幕付き)
1999年 イタリア・アカデミー賞 助演女優賞ノミネート(パオラ・ティッツィアーナ・クルチアーニ)
『シュガー(原題:Sugar)』
出演:アルゲニス・ペレス・ソト(『キャプテン・マーベル』)、カール・バーリー(『マジェスティック』)、マイケル・ガストン(『ブリッジ・オブ・スパイ』『インセプション』
(2008年、監督:アンナ・ボーデン&ライアン・フレック)
Blu-ray上映(日本語字幕付き)
2010年 AFIアワード 映画部門受賞
2008年 サンダンス映画祭 グランド・ジューリー賞ノミネート