【レポート】映画『アンネ・フランクと旅する日記』×東京女学館 中学校・高等学校 ―この物語は、アンネからの希望のバトン


『戦場でワルツを』のアリ・フォルマン監督の最新作『アンネ・フランクと旅する日記』が3月11日(金)より公開される。この度、東京女学館 中学校・高等学校にて、アンネが未来に紡いだメッセージを考える<特別試写会>が実施された。

2009年にユネスコの「世界記憶遺産」に登録され、「世界で最も読まれた10冊」のうちの1冊に挙げられた「アンネの日記」。出版から75周年を迎え、戦争の記憶もホロコーストの生存者も失われつつある今、ホロコーストの記憶と経験を後世に語り継ぐことの必要性が高まっている。
「現在と過去をつなぐ」、「アンネが最期を迎えるまでの7か月間を描く」という切り口で、日記には書かれていないその先の物語を、アンネ・フランク基金の全面協力の下に制作された本作。世界中の若い方々へアンネの生涯を語り継ぐためにも、アニメーションという手法を用いて、全編英語の映画として成立させた。

映画『アンネ・フランクと旅する日記』×東京女学館 中学校・高等学校<特別試写会>概要
◎日時:2月12日(土)15:30~ 試写会
17:20~18:00 イべント(ワークショップ)
◎ゲスト:石岡史子氏(NPO法人ホロコースト教育資料センター理事長)
◎対象学生:東京女学館中学校・高等学校 中学3年生
有志ならびに「アンネのバラ委員会」
◎イベント形態:オンライン

アンネ・フランクが後世に遺した「アンネの日記」を綴り始めてから80年、出版から75年を迎えた2022年の今、アンネが隠れ家生活を送っていた年齢と同世代になる学生たちと、映画『アンネ・フランクと旅する日記』を通して平和について考える<特別試写会>が、2月12日(土)、「アンネのバラ委員会」を擁し1年を通し「平和学習」取り組んでいる東京女学館 中学校・高等学校にて行われた。
オンラインで実施された本試写会に参加したのは、<アンネのバラ委員会>の中学3年生から高校2年生までの14名と、「平和学習」を学年テーマとしている中学3年生20名の34名。ゲストにNPO法人ホロコースト教育資料センター理事長・石岡史子氏を迎え、参加者を5グループに分けたワークショップを組み込み、学生たちと一緒にアンネから託されたメッセージを考えた。

ほとんどの生徒が「アンネの日記」を読んでおり、「私たちと年が離れていないのにこんな文章が書けるなんて、すごい文才だなと思いました。たとえ日記でも自分の心情をこんなに赤裸々に話せるのはすごいです」、「あのような状況下でも想像力をもって希望を持ち続けられたのはアンネだからこそ出来たことなのだと思います」、「元々アンネに持っていたイメージが勉強もできて完璧な女の子のイメージでしたが、意外と恋の話だったり友達の愚痴だったり今の私たちと似ている部分があって、どこにでもいる女の子で共感できたし、親近感を覚えました。だからこそ強制収容所で亡くなったということを知ったときは、自分たちと似ていると思ったからこそ、すごく苦しい、悲しいと思いました」、「戦争は年齢とか性別とか関係なく、残酷に誰でも巻き込んでしまうものだということを、アンネは書き残しておきたかったのではと思います」など様々な想いをめぐらせる。
「アンネの日記」をもとに新たな視点で描かれた本作を鑑賞し、ワークショップを行う中で様々な問いが挙げられた。

アンネ


本作ではアンネの空想の友達(イマジナリーフレンド)・キティーが主人公として描かれているが、「なぜ主人公をキティーにしたのか?」という問いに対し、「『アンネの日記』は私たちがアンネのことを知ることが出来る一番の資料で、アンネが唯一残してくれたもの。それをキティーがアンネの代わりに、現代の私たちに伝えることで、今世界で起こっている問題にも目を向けるきっかけを与えてくれていると思います」と、キティーを主人公とすることで現代に生きる私たちへの問いかけを可能としていることを指摘した。

アンネはユダヤ人だったことからナチスによる迫害を受けたが、今世界で起こっている問題として本作で取り上げられるのも、少数派の人々が差別の対象となってしまう問題である。なぜそうなってしまうのかという問いに対し、「昔から少数派の人々は差別的にみられていますが、それはアンネの時代だけでなく現代にも通ずると言えます。アンネやその時代に起きた出来事を過去の出来事として考えてしまう傾向があり、日記を読んだり歴史を知るだけで、実は学びを得ていないのではと感じます。だから過去の出来事という枠組みで考えるのではなく、現代へ繋げて考え、そして実践していくことで世界を変えていくことができるのではないかと考えます」という意見が挙がった。

そして「この映画は私たちに何を伝えるのか?」という問いに対して、「劇中で『アンネが伝えたかったことは子供たちの命をひとりでも多く救うこと』だとキティーが皆に向かってスピーチするのが印象的でした。差別をしてはいけないということ、そしてひとりでも多くの人の命を守るということが大切なのだと学びました」。

キティー


さらに、多数派の攻撃の対象が少数派になってしまうことから「少数派の人たちが声を挙げられるようにするにはどうしたらよいのか」というところまで掘り下げ、「相手を知らないから大量虐殺などひどいことが出来て悲劇に繋がる。それを解決するためにはお互いのことをしっかり知ること、理解することが大事なのではと思いました。どうすればお互いが理解し合えるのかというのを考えていく必要があると思います」「互いを理解するために第一歩として、まず偏見をもたないで、こういう人と決めつけないで、コミュニケーションをとることが大切だと思います」「「差別される側が主張するのは難しい。今回の映画であればキティーのように、差別されていない誰かが、差別される側の気持ちや考えをしっかり理解して一緒に戦うことで、差別される側も少しでも主張しやすくなるのではと思いました」と、活発な意見交換が行われた。

最後に本作の監督である、アリ・フォルマンより日本へ向けて、特別なメッセージが先生より紹介された。
「とても素敵な、心温まる、独創的で美しいことだ。アンネ・フランクを偲ぶということは、この映画の奥深いところ、つまり過去を思い出して学び、現代の戦地の子供たちを想うこと。2020年だけでも、1700万人の子供たちが戦地から逃げている。彼らは自分で選んだわけじゃない、逃げざるを得なかったんだ。移民の現状を知ることは非常に大切なことだと思う。」

アンネから託されたメッセージを受け取り、そして未来へと希望を繋いでいく若者たち。
<アンネのバラ>とともに平和を育む、アンネと同世代の学生たちへ、アンネから希望のバトンが渡された。


「アンネのバラ」とは
『アンネの日記』の著者アンネ・フランクにちなみ「アンネ・フランクの形見(Souvenir d’Anne Frank)」名付けられたバラ。1955年にベルギーで生まれた品種。日本へはアンネの父オットーから贈られたものが、平和を願う人から人へと伝えられ、現在は日本全国の学校や地域で育てられている。

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