LGBTやストーカーという言葉がまだ存在していなかった40年前、「女の子が女の子を好きになる」というセンセーショナルな作品が日本から生まれたことは世界中に衝撃を与え、ヨコハマ映画祭自主製作映画賞に輝き、エジンバラ国際映画祭、モントリオール世界映画祭などいくつもの海外の映画祭を駆け巡った映画『風たちの午後』が、このたび『風たちの午後 デジタルリマスター』として、3月2日より新宿K’s cinema、3月9日よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開となる。
2013年にカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを獲得した映画『アデル、ブルーは熱い色』、2015年の話題映画『キャロル』、そして昨年世界中でスマッシュ・ヒットを記録した映画『君の名前で僕を呼んで』など、昨今ではLGBTを題材にした作品が日本国内でも若い世代を中心に注目されている。
今から遡ること40年、当時日本はおろか世界でも恋愛の形が閉鎖的であったこの時代に、20代になったばかりの青年・矢崎仁司はテーマや題材を特別に意識することなく、自由な発想で映画『風たちの午後』を仲間たちと撮った。
「女の子が女の子を好きになる」というセンセーショナルな作品が日本から生まれたことは世界中に衝撃を与え、ヨコハマ映画祭自主製作映画賞に輝き、エジンバラ国際映画祭、モントリオール世界映画祭などいくつもの海外の映画祭を駆け巡った。 しかし、そのデビュー作も音楽の著作権問題で上映ができず、長い間封印されてきた。
今般、国内外からの熱い上映オファーとファンの支援を受け、デジタルリマスター版『風たちの午後』として奇跡の修復が実現。伝説の映画が40年の時を経てスクリーンで蘇える。
愛が動機ならやっちゃいけないことは何一つない
正確に覚えていないけど「映画は人と同じで歳月とともに死ん でいく」という鈴木清順監督の言葉が好きだ。だからリマスター を作るより、新作を生み続けていたいと思っていた。凡そ40年前、日本大学の学生だった頃、この『風たちの午後』を自主制作した。聞こえてくる音を幽かに残し、「観る」ことの映画を作りたかった。上映中の音量を下げるために、すべての上映に付 き添った。だから日本中の各地を旅して、この映画の観客に出会った。初めての海外は、エジンバラ国際映画祭だった。また、ニューヨークでは、矢崎が女性なら、シャンタル・アケルマンやマルグリット・デュラスに匹敵すると言われ、表現者の性別を超えた記念すべき作品と評価されました。
この映画を作ったことで、デレック・ジャーマン監督、侯孝賢監督、楊德昌監督に出会えた、思い出深い作品です。今も、ロンドン、香港などのゲイ・フィルム・フェスティバルから上映を熱望されているのに、フィルムの劣化と音楽の問題などがあり、皆さんに観て頂くチャンスがなくなってしまったのが残念でした。
この度、映画24区やABCライツさん、皆さんの力を借りて、もう一度、世界のスクリーンに映すことが出来ることは心から嬉しいです。また、世界中のこの映画の観客に会え、新たなエネルギーを、新作に注ぎこみたい。ストーカーやLGBTなどの言葉すらなかった頃、人が人を愛することを、愛が動機ならやっちゃいけないことは、何一つないと信じて作った作品を、今の人たちに観てもらいたいと強く思います。
矢崎仁司
矢崎仁司監督プロフィール
山梨県出身。日本大学芸術学部映画学科在学中に、『風たちの午後』(80)で監督デビュー。2作目の『三月のライオン』(92) はベルリン国際映画祭ほか世界各国の映画祭で上映され、ベ ルギー王室主催ルイス・ブニュエルの「黄金時代」賞を受賞するなど、国際的に高い評価を得た。95年、文化庁芸術家海外研修員として渡英し、ロンドンを舞台にした『花を摘む少女 虫を殺す少女』を監督。そのほか監督作品に、『ストロベリーショートケイクス』(06)、『スイートリトルライズ』(10)、『不倫純愛』(11)、『1+1=1 1』(12)、『太陽の坐る場所』(14)、『××× KISS KISS KISS』(15)、『無伴奏』(16)『スティルライフオブメモリーズ』(18)などがある。
Comment
映像における文学性の発露を眺めているうちに、
痛みの感覚が身体の中にいつの間にか広がってゆき、
この映画と分かち難い季節をかつて生きていたかのような、
純真な錯覚に目覚めてゆく。
24歳の矢崎仁司監督に、
いちばん望まれるべき未来があることだけを願いながら。
映画監督 山戸結希(『溺れるナイフ』『21世紀の女の子』)
ストーリー
美津の誕生日。
夏子はお揃いの乙女座のネックレスとバラの花を買って来る。
しかしアパートの窓には白いハンカチ。それは美津の恋人・英男が来ている合図だった。
ひそかに美津を愛してしまった夏子。
彼女を独り占めしようと思うがゆえに英男に近づく夏子は・・・
真夏の午後、世界を震撼させた衝撃のラストが―
作品タイトル:『風たちの午後 デジタルリマスター』
出演:綾せつこ・伊藤奈穂美
阿竹真理・杉田陽志
監督:矢崎仁司
脚本:長崎俊一・矢崎仁司
企画:三谷一夫 プロデューサー:平沢克祥 長岐真裕
撮影:石井勲・小松原淳 録音:鈴木昭彦・吉方淳二
編集:中島吾郎・石沢清美・目見田健
音楽:信田和雄・阿部雅志・内田龍男・矢野博司・BOOZY
制作:追分史朗・長崎俊一
協力:ヨコシネD.I.A.・草野康太・原風音・本間淳志・戸丸杏
宣伝美術:林啓太・矢島拓巳 WEB:徳永一貴
製作:ABCライツビジネス・フィルムバンディット・映画24区
2019年/日本/105min/パートカラー/モノラル/DCP
宣伝・配給:映画24区
公式サイト:http://kazetachinogogo.com/
コピーライト:(C)2019 映画「風たちの午後デジタルリマスター版」製作委員会
3月2日より新宿K’s cinema、3月9日よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開