今後の活躍が期待される27歳の新鋭、藤村明世監督劇場公開デビュー作『見栄を張る』が3月24日(土)より、渋谷ユーロスペース、横浜シネマリンほか全国で順次公開される。この度、本作の本予告が完成した。
監督は、是枝裕和監督製作総指揮のオムニバス『十年 日本(仮)』の一篇を手掛ける新鋭、藤村明世監督。『おくりびと』を彷彿とさせる、かつて日本にも実在していたという葬儀のための「泣き屋」に着目した『見栄を張る』は、シネアスト・オーガニゼーション(CO2)の助成で製作された長編映画1作目。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭 2016でSKIPシティアワード、イタリアのWorking Title Fil, Festivalにてスペシャルメンションを受賞したほか、ドイツ、アメリカ、オランダなど世界の国際映画祭で注目を集めた。
主演は『神様の轍 Checkpoint of the life』『たまゆら』ほかネクストブレイク必至の久保陽香。体裁を気にする現代人の心の闇や無縁社会で失われゆく人との絆、夢を諦めきれないヒロインの成長が、女性同士ならではの繊細かつポップな筆致で紡がれている。
藤村明世監督インタビュー
―「泣き屋」という仕事に着目したきっかけを教えてください。
高校生の時に、朝のワイドショーで特殊な職業をいくつか紹介していて、その中のひとつが「泣き屋」でした。 “サクラ”や“レンタル参列者”のような扱われ方で、人は死ぬときまで周囲の目を気にしなければいけないのか……と衝撃を受けました。その後、国会図書館に行き「泣き屋」を調べると、サクラ的なものとは違い、昔は僧侶のような存在だったとか。死者の魂をあの世に送り、参列者を浄化する役割を担っていたと知り、興味が沸きました。
―そのアイデアを武器にCO2 へ応募し、監督にとって初めての長編映画制作がスタートします。
短編「彼は月へ行った」がぴあフィルムフェスティバルに入選した時に、自分の作品と併映された長編を観て、短編とは違う長編の“強さ”を感じたんです。次に撮るなら絶対長編だと思いました。同じ時期にCO2 の存在を知り、かねてから気になっていた「泣き屋」の企画を応募して。プレゼンでは、着想の面白さを審査員の方が評価してくださいました。
―アイデアを脚本に落とし込む上で、気を配ったことはなんですか?
最初はヒロインが最初から「泣き屋」を仕事にしている設定でした。でも審査員から、「『泣き屋』を始めたことをきっかけに成長していく方が心境の変化が生まれて面白くなるのでは」との助言を受け、脚本に反映していきました。そして「泣き屋」はもう存在していない職業。突飛なファンタジーにならないよう、生活に密着したリアリティを出すように気を配りました。また、絵梨子は“夢がないOL”という設定だったのですが、脚本を書いていく中で気持ちが乗らなくて……。そこで“自分”に近づけてみようと思ったんです。私自身、大学卒業後から助監督を始め、好きな映画の仕事に就いたものの、同世代の監督が自分の作品で賞を獲っていることにとても焦りました。映画のそばにいるのに夢はどんどん遠ざかり、絵梨子のように見栄を張ったり体裁を気にしたり……。だから、絵梨子にはかなり自分を投影していますね。
―そんなご自身を投影した絵梨子を体現したのが、主演の久保陽香さんです。
久保さんは、以前見た東京海上日動のTVCM で気になっていて、こちらから声をかけさせていただきました。ただオーディションで絞り込んだ数人のうち、久保さんだけが泣けなくて。でも逆にそれが絵梨子らしかったし、泣けなくても構わないと思えるほど、華があって凛とした久保さんに惚れこんでしまったんです。当初絵梨子はもっと男らしくサバサバしたキャラでしたが、久保さんに合わせ、脚本を修正していきました。撮影中の久保さんは、愛らしい魅力はそのままに“座長”としてドシッと構えていました。こちらの意図もすべて汲み取ってお芝居に反映してくださって、とても頼もしかったです。
―ロケ地となった和歌山の美しい景色も印象的でした。
脚本執筆中から、田舎の村にポツンと家があるビジュアルが思い浮かんでいました。そこで知り合いのプロデューサーさんからお薦めされたのが、和歌山県の海南市。実際に足を運んでみると、まさに「泣き屋」が実在しているかのような美しい風景が広がっていました。街の方々もみなさん温かく迎え入れてくださり、感謝しています。絵梨子の実家のロケをしたのは、普段は別荘として
使われている場所。リビングはもともと物置だったのですが、美術スタッフさんが劇中の状態に作り込んでくれました。
―スーパーラビットビールや絵梨子の後輩が表紙を飾る雑誌など、小道具へのこだわりも随所に感じられます。
もともと“ありそうでない”架空のアイテムを考えるのが好きなんですよね。私自身、相手の洋服より持ち物が気になるタイプ。というのも、持ち物ってその人の個性が出ると思うんです。また、撮影前に、好きな映画やアーティスト、恋人とどう出会ったかに至るまで、絵梨子のプロフィールを作りました。それを元に、美術スタッフさんが絵梨子の部屋のアイテムを揃えていきました。ソニック・ユースのポスターは、恋人である翔の影響という設定です。
―絵梨子の好きなものといえば、カップ焼きそばにしょうがを入れて食べるのも斬新でした。
大学のときに、何にでも調味料をかけて食べる友達がいて。同じ味が続くと飽きちゃうというか、何か入れないと心が落ち着かないんでしょうね。さっきの持ち物同様、食べるものや食べ方にも人のアイデンティティが表れる。きっと絵梨子も気に入って食べているものがあるはず。そう考えたときに、カップ焼きそばにしょうがの組み合わせが思い浮かびました。ただ実は撮影直前まで試したことがなくて……。久保さんに「おいしいんですか?」と聞かれ、あわてて試食しました。想像通りの味でした(笑)。
―スーパーで再会した同級生や元恋人との会話がリアルでしたが、監督自身は東京出身ですよね。
東京生まれ東京育ちなので、“田舎に帰る”ということに昔から憧れていました。久しぶりに同級生と会い、お互いの環境を楽しく報告し合うような、どちらかと言うとポジティブなイメージを抱いていて。脚本にもその憧れの気持ちが出ていたようで、スタッフから「地元に帰るのは、そんなきれいごとじゃない」と指摘されました。その後、地方出身の友達に取材させてもらい、田舎独特の閉塞感やしがらみを脚本に反映していきました。そして、夢を追って田舎を飛び出した絵梨子のダメさと、田舎で地に足のついた生活を送る同世代とのギャップも描こうと思いました。
―“女優”という存在にはどんなイメージを持たれていますか。
私、子どもの頃にお芝居を習っていたんです。「大好きな映画の中に入ってみたい」と無邪気に思っていました。でも中学生のとき、学園ものの映画撮影にエキストラで参加したんですが、メインキャストのみなさんのオーラに圧倒されてしまって。年がそんなに違わないのに、カメラの前に立つ人ってこんなにすごいのか、と勝手にひとりで挫折しましたね(笑)。私にとっての“女優さん”とは、カメラの前に立つだけでも恥ずかしさでパニックになりそうなのに、そんな気持ちを全て取っ払って、“自分とは違う人間”を生きる人たち。一度は志したことがあるだけに、羨ましさと尊敬の気持ちがあります。久保さんもオーディションでは泣けなかったのに、本番ではスッと涙を流していて。現場でもスイッチが入ったのを感じました。
―これからどんな監督を目指していきたいですか。
人生経験が浅く、今はまだ子どもや同世代の女性など自分の知っている世界しか描けていません。今後はいろんな人と出会って、自分とは違う価値観をどんどん吸収していきたいですね。そしていつか、社会問題も扱ってみたいです。製作中の『十年 日本(仮)』では、環境汚染問題の暗喩に挑戦しました。ドラマも社会派映画も両方描ける、是枝裕和監督のような作品づくりが理想です。
ストーリー
周囲には“女優”として見栄を張りながらも、泣かず飛ばずな毎日を過ごす絵梨子。ある日、疎遠だった姉の訃報を受け帰郷した絵梨子は、姉が葬儀で参列者の涙を誘う「泣き屋」の仕事をしていたことを知る。その仕事の真の役割を知らぬまま、絵梨子は女優ならば簡単にできると思い、「泣き屋」を始めてみるのだが・・・。
第12回シネアスト・オーガニゼーション大阪助成作品
作品タイトル:『見栄を張る』
出演:久保陽香、岡田篤哉、似鳥美貴、辰寿広美、真弓、倉沢涼央(旧:齋藤雅弘)、時光睦、小柳圭子(特別出演)
監督・脚本:藤村明世
プロデューサー:今井太郎
エグゼクティブ・プロデューサー:Aldo Andriani
撮影:長田勇市
録音・整音:杉本崇志
助監督:永井和男・磯部鉄平
美術:塩川節子
衣裳・ヘアメイク:霜野由佳
小道具:加賀谷静
制作:山口理沙・水取拓也
編集:磯部鉄平
2016/日本/カラー/DCP/93分
音楽:佐藤太樹・大石峰生・伊藤智恵
キービジュアル撮影:山田星太郎
主題歌:ayU tokiO「恋する団地」
協力:和歌山県海南市・紀美野町・有田川町のみなさん
特別協力:オレンジライフ・マツゲン・テアトルアカデミー・TJWK関西・中華そば楠本屋・焼肉吉野
宣伝:平井万里子
配給:太秦
公式サイト:http://miewoharu.com/
コピーライト:(c)Akiyo Fujimura
3月24日(土)より、渋谷ユーロスペース、横浜シネマリンほか全国順次公開