『プアン/友だちと呼ばせて』ウォン・カーウァイの次世代育成ともいえる作品作りについて紐解く ―8月5日(金)公開

プアン/友だちと呼ばせて
※インスタグラムより

『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』のバズ・プーンピリヤ監督とアジアの巨匠ウォン・カーウァイがタッグを組んだ映画『プアン/友だちと呼ばせて』が8月5日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、渋谷シネクイントほか全国順次公開となる。

NYでバーを経営する青年ボス(トー・タナポップ)のもとに、バンコクで暮らす友人のウード(アイス・ナッタラット)から数年ぶりに電話が入る。ガンで余命宣告を受けたので、帰ってきてほしいというのだ。バンコクに戻ったボスが頼まれたのは、元恋人たちを訪ねる旅の運転手。カーステレオから流れる思い出の曲が、二人がまだ親友だった頃の記憶を呼びさます。忘れられなかった恋への心残りに決着をつけたウードを、ボスがオリジナルカクテルで祝い、旅を仕上げるはずだった。だが、ウードがボスの過去も未来も書き換える〈ある秘密〉を打ち明ける──。

ウォン・カーウァイと言えば、『花様年華』『恋する惑星』など、数々の名作を撮り、いまだ日本でも特集上映が組まれるなど、新旧のファンから愛され続けている名監督だ。そんなウォンを突き動かしたのは、わずか長編2作目ながら「こんな映画アリ!?」と大興奮を巻き起こし、本国タイで年間ランキング1位、アジア各国でタイ映画史上歴代興収1位を奪取、世界中からリメイクを熱望され、日本でも大ヒットを記録した『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』を監督したバズ・プーンピリヤである。彼の才能に心底惚れ込み、自らプロデュースを熱望したウォンが、プーンピリヤに「一緒に映画を作ろう」と声をかけたことからすべては始まった。これまでウォンは何作品もプロデュースは手掛けてはいるが、国の垣根を超え異国の若手監督に声をかけるのは初の試みだ。

全く面識がなかった憧れの存在からのオファーにプーンピリヤは飛び上がり、「最初は『嘘だろ?』と驚いた」と振り返る。自分にとってアイドルのような監督からのオファーにプーンピリヤは二つ返事で快諾する。“製作”を担うことになったウォンはまずはプーンピリヤを香港に呼び寄せ「バケットリスト(死ぬまでにやりたいことリスト)ムービーでいこう」というアイディアを提示する。主人公は中国のポップスターで、余命宣告を受けて世界中を旅するが、タイで出会った女性と恋に落ちるという設定で脚本を書いてみようというお題だった。

プーンピリヤは全力で取り組み企画がスタートしてから1年間がむしゃらに書き続けたが、粘り強いことで知られるウォンから「このストーリーは捨てよう、君に思い入れが感じられない」とあっさりと却下されてしまう。これにもめげずに食らいつき、「死にゆく男性が元カノたちに感謝と謝罪、そして最後のさよならを言いに行く物語にしたいと閃いた」と語る。

新たに脚本を開発するうえでウォンから重要なアドバイスがなされた。1つは「余命宣告を受けるキャラクターだけでなく、行動を共にするもう1人の人物を登場させよう」というもの。これは、2人で人生のレッスンを学ぶのだが、1人が生き残ることによって、その学びを未来へと継承することができるからだ。そしてもう1つが、ウォン自身の映画作りでも貫いている「自分らしくあれ、自身のストーリーを綴れ」というアドバイスだった。

こうしてウォンの的確なアドバイスと見事な舵取り、そしてそれを真摯に受け止めたプーンピリヤは3か月という驚異的なスピードでこだわり屋のウォンも納得の脚本を完成させた―。
そして、作品はサンダンス映画祭でプレミア上映され、ワールドシネマドラマティック部門で審査員特別賞に輝いた。

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