『せかいのおきく』は究極の「3R」映画!劇中に出てくる美術・衣装・小物は全て、新しいものは一切使用しない徹底ぶり

せかいのおきく
本作ポスターに登場する「厠」は全て古材で作成

本日3月17日(金)は「みんなで考えるSDGsの日」。2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)が目指す持続可能な社会の実現のために、映画の撮影現場でも環境保護の取り組みが行われている。
阪本順治監督が黒木華主演、寛一郎、池松壮亮共演で手掛けた最新作『せかいのおきく』(4月28日(金)公開)の撮影現場でも、江戸の循環型社会が描かれる本作の物語と同様に、環境に配慮した取り組みが行われた。

本作は、声を失った武家の娘・おきくと雨宿りで出会った紙屑拾いの中次と下肥買いの矢亮の青春物語。人間と自然が共生し、経済として成り立っていた江戸の循環型社会を描いていることも本作の特徴だ。

江戸では資源が少なく衣食住のすべてが貴重なものだという考えが浸透しており、例えば、料理で使う鍋や食器は、割れたり穴が開けば焼き接ぎでくっつけるなど修理して使い続ける。紙屑買いが集めた反古紙は漉き直して再生紙に何度も生まれ変わった。本作に登場する「下肥(しもごえ)買い」は「汚穢屋(おわいや)」とも呼ばれ、江戸市中から糞尿を集めて農家に運び畑の肥料として活用した。江戸時代は、紙をリサイクルし、糞尿を肥料として農業に用いるなど、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の最先端であったのだ。

これまでの時代劇作品では詳しく描かれてこなかった、当時の社会を支えていた大事な職業に就く人々――劇中のおきくが恋する相手の中次は「紙屑拾い」、のちに相棒となる矢亮は「下肥買い」――当時世界一の人口を誇った100万都市・江戸を底辺から支えた人々にスポットを当て、彼らの暮しぶりを生き生きと描いた本作は、サスティナビリティの先進国であるオランダのロッテルダム国際映画祭から招待され「驚きがたくさん詰まった、全く従来の型にはまらない素晴らしい作品」と称賛を浴びた。

映画『せかいのおきく』の撮影現場では、江戸の循環型社会が描かれる本作の物語と同様に、環境に配慮した様々な取り組みが行われた。
映画美術のセットは、建物や装飾、小道具など様々なものを新しく作り、撮影後は大量のごみとして排出されることも多々あるが、本作では、企画・プロデューサーで美術監督の原田満生氏の指揮のもと、美術セットや小道具、衣裳に至るまで劇中に出てくるもの全て、新しいものは一切使用しない、「3R(リデュース・リユース・リサイクル)」映画(原田氏が命名)として撮影することを決めて準備が行われた。

例えば、主人公・おきくが住む長屋のセットは、東映京都撮影所にある様々な名作が生まれたオープンセットをリユースして作られた。また、おきくと中次が手を取り合う本作のメイン写真にもなっている雪が降るシーンでも、松竹京都撮影所にある、長屋オープンセットをリユースして印象的な舞台を創りあげた。

また、本作ポスターにも登場する、おきくと中次・矢亮の3人が雨宿りする厠の建物は、新材ではなく古材を使って作成。中次と矢亮が下肥買いの仕事で乗る「汚穢(おわい)船」や、肩に担ぐ桶や大八車などもリユースされているものだ。

「汚穢(おわい)船」について、美術監督の原田氏は「『せかいのおきく』で中次と矢亮が漕いでいる「汚穢船」は、昭和の高度成長期(今から60年くらい前)に造られた木船。現代では、木の船は殆どなく、多くがFRP(繊維強化プラスチック)で作られた船なのでとても貴重でした。この木船は、栃木市で川の遊覧船として使われていたもので、古くなったので、本作のマリン統括ディレクターの中村勝が3艘を譲り受けました。その遊覧船を加工して「汚穢船」としてリユース、その際も新材ではなく、古材を使用しています。そのほうが、風合いも出て統一感がでるメリットもあります。それまでの歴史を背負っている、そのような存在感が出るのです。『せかいのおきく』の撮影が終わったら、次の作品では昭和初期の屋形船として加工してリユースしています。本作のように、3Rを徹底して映画の世界観を作り上げることができたのは初めてのことです。今あるものをリユースしていく取り組みは、映画の現場としても目指すべき姿です。この作品をきっかけに伝えていくことも大切だと思っています」と語る。

さらに、衣裳も全てリユースされている。池松壮亮演じる矢亮の衣裳の生地は明治時代のもの、黒木華や寛一郎はじめ、全キャスト、登場人物全ての衣裳は、昭和初期の生地をリユースし、仕立て直している。

そして、本作撮影で使用した美術セットや衣裳は全て捨てることなく、撮影所に残し、また次の作品で活用してもらえるよう保管している。

物語さながら江戸の循環型社会を再現するかのような現場作りを試みた原田氏は、「この映画で世の中が変わるなどとは思いませんが、大事なのは伝えていくこと。日本にはかつてこんな営みがあり、こんなに素晴らしい社会があったということを、多くの人に知ってもらいたい。それが次に繋がり、世の中にとっていい動きが生まれれば、と思います」と、本作に込めた想いを語っている。

せかいのおきく
「汚穢(おわい)船」も全て古材で改造している
せかいのおきく
撮影所のオープンセットをリユースした「長屋」のシーン
せかいのおきく
おきく(黒木)の着物は昭和初期の生地を仕立て直し
せかいのおきく
中次(寛一郎)の衣裳は昭和初期の生地を仕立て直し
矢亮(池松)衣裳は明治時代の生地をリユースして作成
企画・プロデューサー、美術監督の原田満生氏

イントロダクション
物語の背景には、糞尿を肥料として農業に用いるなど、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の最先端にあった江戸時代の日本の風景が重ねられている。日本を代表する美術監督であり、本作で企画・プロデュースを務めた原田満生は「この映画で観る人の環境意識が変わるとは思わないが、こんな時代があったことを多くの人たちに、特に若い世代の人たちに知ってもらいたい」と語っている。

ストーリー
日本が世界の渦に巻き込まれていく江戸末期。寺子屋で子供たちに読み書きを教えているおきくは、ある雨の日、厠(寺所有の公衆便所)のひさしの下で、雨宿りをしていた紙屑拾いの中次(ちゅうじ)と、下肥買いの矢亮(やすけ)と出会う。武家育ちでありながら今は貧乏長屋で質素な生活を送るおきくと、古紙や糞尿を売り買いする最下層の仕事につく中次と矢亮。侘しく辛い人生を懸命に生きる三人はやがて心を通わせていくが、ある悲惨な出来事に巻き込まれたおきくは、喉を切られ、声を失ってしまう…。

作品タイトル:『せかいのおきく』
出演:黒木華 寛一郎 池松壮亮 眞木蔵人 佐藤浩市 石橋蓮司
脚本・監督:阪本順治
製作:FANTASIAInc./YOIHI PROJECT
制作プロダクション:ACCA
配給:東京テアトル/U-NEXT/リトルモア

映画公式サイト:sekainookiku.jp
映画公式Twitter:@okiku_movie
「YOIHI PROJECT」公式サイト:yoihi-project.com
コピーライト:(c)2023 FANTASIA

2023年4月28日(金) GW全国公開

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