7月28日(日)に、映画『化け猫あんずちゃん』の公開記念ティーチインイベントが、TOHOシネマズ 日比谷にて実施された。
映画上映後に、久野遥子監督、山下敦弘監督、劇中の音楽と、おしょーさんの声と動きを担当した鈴木慶一、たぬきの声と動きを担当した澤部渡、そして音響監督の滝野ますみが登壇。
イベントでは撮影裏話や音楽談義、そして実写映像とアニメ映像の比較動画の上映や、パイロットフィルムの上映、また客席とのQ&Aなどを実施する盛沢山のイベントとなった。
公開を迎えて1週間が経った本作。周りからの反応を尋ねられ、昨日ニューヨークから帰ったばかりだという山下監督は「多くの作り手の方々にも観ていただいて、いい反応をいただけていて嬉しいです」、続いて久野監督は「ネットで反響をみたら、みなさんキーホルダーなどのグッズも買っていただいていて、あんずちゃんがカバンの中に入っていたり窓辺にいたり、あんずちゃんが旅をしているな、と嬉しい気持ちになりました」と喜びの気持ちを語った。
役者の芝居を実写で撮影した映像を、トレースしてアニメ化するロトスコープの手法で作られた本作。イベント内で、元になった実写映像と完成したアニメ映像の比較動画が上映されると、思わず食い入るよう見る登壇者たち。
おしょーさんの声と動きを担当した鈴木は「本当に暑かった」と撮影当時を振り返りつつ、「比較してみると実写の動きにアニメーションが非常に寄り添っていて驚きますね。アニメだけ見ていてもリアルな動きだなと感じますが、比較して見てるとさらに強く感じます」とその出来栄えに驚愕。また「山下監督とは古い付き合いで、何度か出演もしているので、いつもの映画を作っている感じで演じてました」と撮影時の演技プランについても明かした。
また、本作のおしょーさん役だけでなく、劇中の音楽も担当した鈴木。これについて「実に奇妙な体験なんですよ。自分の演技を見て、批評しながら、音楽を作るんです。初めての体験ですよ。自分の演技ばかり見ている場合じゃない!音楽作業もしなきゃ!ダメ出ししてる場合じゃない、となりました」と初めての特別な経験だったと告白。
また、たぬきの声と動きを担当した澤部は、自身の泣きの演技がアニメ化されたシーンを見て「本当に面白いですよね。実写での泣く演技が、アニメ化されるうえで、いわゆる漫画的な涙の表現が加わって、その絶妙さがなんとも言えないです。すごい奇妙で面白いですよね。細かいところに、いろんなディテールが詰まっていて、なんて豊かな世界なんだろうと思いました」とアニメならではの表現の面白さを指摘する。
本編のセリフに、実写撮影時の同録音声が使用されている本作。
音響監督の滝野は「現場で録った演技の音声をそのままアニメに乗っけるという作業をしているのですが、ロトスコープの作品でもそういう作品はあまりありません。最初に実写の状態の映像を見て、これはこのまま演技や現場の雰囲気の音を残した方が面白いアニメーションになるかと思い、できる限り同録の音を使っています」とそのこだわりを語った。
また、劇中の音楽について、鈴木は「実写の映像の声を使うということでイメージが膨らましやすかったです。ただ、実際にどういうものが完成するかわからない(笑)。久野監督とも『宝石の国』でご一緒していましたが、出来上がったものを見て、予想していたものよりデフォルメされていて、柔らかいアニメになっていました。その柔らかさをどう表現しようか?と考えていました」と振り返る。
また、滝野と細かく密に打ち合わせを重ねたうえで劇中の音楽が作られ、「最後の2ヶ月くらいは毎日やりとりしてました」とその熱の入れようを滝野が明かした。
イベントの中では特別に、映画『化け猫あんずちゃん』撮影開始前に、2020年制作されたパイロットフィルムを上映。このパイロットフィルムの際は音楽を担当していた澤部は「まさか出ることになるとは・・・」とたぬき役としての出演について笑いながらコメントしつつ、原作も好きだったといい、「最初は本当に“あんずちゃんがアニメになるの!?嘘だろ!?”という驚きが大きくて、そしてそれを久野監督・山下監督が作るというのが衝撃でした。すごい気合を入って曲を作りました」と当時の意気込みを振り返った。
最後には登壇者それぞれが客席に向けて挨拶。
久野監督「いろんな人たちの力ですごく時間をかけて作った作品なので、どんどん広がっていくと嬉しいなと思っています」、山下監督「すごく可愛らしい映画ですけど、すごく実験的で挑戦的な作品でもあります」、鈴木「夏に観るのが一番いい作品だと思います。音楽を作る上で、ちっとも苦しくなかった作品です。多分、毎年夏になると撮影現場のお寺のことを思い出すと思います」、澤部「たぬきとして何を残せたでしょうか(笑)?本当に楽しい撮影でした。森山未來さんと私有地で軽トラの荷台に二人で乗ったり、人生にはこんな夏があるんだと、そういう意味でも記憶に残る作品です」、滝野「実はクリエイターたちが結構挑戦的なことをしていて、そういう作品は結構尖りがちなのですが、夏の余韻が感じられるような、バランス感のある作品になっていると思います」とそれぞれに作品への想いを語り、イベントは大盛り上がりのなか終了となった。
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