【レポート】「現代アートハウス入門」第2夜開催!山下敦弘監督✕夏帆『動くな、死ね、甦れ!』を語る

ユーロスペースほか全国18館の劇場で開催中の【連続講座「現代アートハウス入門 ネオクラシックをめぐる七夜」】。
第2夜は、ヴィターリー・カネフスキー監督が54歳のときに撮ったデビュー作にして伝説的傑作『動くな、死ね、甦れ!』を上映後、映画監督の山下敦弘さんと、女優の夏帆さんを講師に迎えたトークが実施された

第2夜  1月31日(日)
16:50  『動くな、死ね、甦れ!』上映
18:45 トーク ゲスト:山下敦弘(映画監督)✕夏帆(女優) ※敬称略

目次

『動くな、死ね、甦れ!』との出会いについて

山下監督は2009年、ユーロスペースのカネフスキー特集上映で鑑賞して以来、約11年ぶりにスクリーンで鑑賞。夏帆は「私はDVDでしか観たことがなくて、今日は仕事で観られなかったんですが、劇場で観てみたいなとすごく思います。全然ちがうんだろうなと。宝石店で、ワレルカの顔に血がつく場面、あのときのアップが印象に残っている。大人びてみえますよね」と印象に残っている場面を振り返る。

山下:映画の後半、ふたりとも成長してますよね?とくにガリーヤは大人になったように見える。子どもたちがすごくいきいきしているというか、子どもたちが笑ってる場面、本当に笑ってると思ったら、そこに監督の笑い声も入ってるところに演出方法が垣間見えたような気がした。本当に笑わせればいいんだと思った。
衝撃的なラストシーンでは、『悪魔のいけにえ』を思い出したり、あと『はだしのゲン』も思い出した。なんでそう思ったかというと、やたら歌を歌うんですよ。あれはマンガで、こっちは映画ですけど、あのエネルギーというか。劇伴はないけど、音楽、歌が流れているという印象があって。いきなり日本語の歌が流れるとドキッとする。

夏帆:初めてみたとき、こういう映画に触れてきてなかったのもあって、すごく驚いた。映画に多様性を感じました。ドキュメンタリーなのかフィクションなのか曖昧で。監督の視点を感じるものも初めてだったんだと思う。

ふたりの出逢い、『天然コケッコー』の思い出

山下:当時、演出に悩んでいて、相米慎二監督の『東京上空いらっしゃいませ』を見たら、オープニングで主演の牧瀬里穂さんの顔がやつれてるんですよ。アイドルの役なのに10分前まで泣いていた顔。鬼気迫る感じ。相米さんの追い込む演出に影響を受けたところもあった。なので、ごめんなさい。

夏帆:当時はフィルム撮影だったのでロールチェンジが、すごく怖いんですよ。冷や汗をかいてました。でも当時の山下さんは29歳、いま私も29で、あのときの山下さんの年齢になって、いまの年齢で15歳の女の子に演出するってすごいなって思います。

観客からのQ&Aタイム

Q:自分の作風とは大きく異なる作品からでも、なんらかの影響を受けて、自身の作風が変化することはありますか?

山下:2007~8年あたりは子どもを演出したいと思っていたんです。『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』って映画が好きなんですけど、あと横浜聡子監督の『ジャーマン+雨』の演出にもすごく刺激をもらって、自分なりに子供の演出っていうのをやりたい時期があったんですよね。影響というより刺激を受けますよね。

Q:お二人の初めてのアートハウス体験、または印象に残っている映画体験について教えてください。

山下:高校生のとき、神代辰巳監督が亡くなって、大阪のいまはもうない劇場でオールナイトやっていたのを見にいきました。ロマンポルノと最後に『棒の哀しみ』を上映していた。内容はおぼえてないけど、朝になって、吉牛食って帰るか、みたいな。若い頃はオールナイトによく見に行っていましたね。ちなみに僕のデビュー作『どんてん生活』はユーロスペースのレイトショーでした。記録的に入らなかったのも今となっては笑い話です。

夏帆:私は、初めては覚えていないんですけど、『ポンヌフの恋人』を今はない吉祥寺のバウスシアターに見に行ったことがあって。DVDと劇場でみるのが全然ちがうんだなと実感しました。それからはなるべく映画館でみようと思った。初めてみたのが家のテレビだと悔しくなる。集中力がもたないっていうのもあるんですけど。映画館って半強制的というか、ずっと見ていたいと思う空間だから。

Q:私は映画のことについて話せる友人がいません。「映画が好き」と言っても色んな映画のジャンルがあるので、相手と自分の趣味が同じかをじりじりと探りを入れないといけないので、最初から踏み込んだ話もしづらく感じます。どうやったら映画友達できますか?

山下:嫌いな映画を語り合うっていうのもいいんですよ。脚本の向井康介と大学のとき、おしゃれな映画サークルでゴダールをみせられて、ふたりでもやもやして、一ミリも分からなかった。その後二人でジャッキー・チェンの『プロジェクトA』をみた。「やっぱジャッキーだよな!ゴダールわかんないよな!」って。いまみたら違うかもだけど、向井も俺もゴダールアレルギーがでちゃって。嫌いなもので盛り上がるってありますよ。

Q:自分が心動かされた映画の良さを、上手く人に伝えられるようになるにはどうすればいいと思いますか?友達などに観た映画について語ろうとしても上手くできずもどかしいです。

夏帆:私も苦手なんですよね。うまく伝えられないってありますよね。
山下:友達といくと、お互いに探り合いますよね(笑) ちょっとヘンだったよね?って誰かが言い出すのを待つみたいな。見落としてるところとか、俺だけわかんなかったのかなとか。あとでみんな分かってないとかも多いんですけど。
夏帆:見栄を張っちゃう。
山下:そういう言葉を選ぶのとかも楽しいんですけどね。うまく言おうとしたりとかしなくていいのかもしれないですね。

これからのアートハウスについて一言。

山下:90年代、学生で、ミニシアターが自分のなかで最先端だった。面白いしかっこいい。もちろんシネコンでかかってるような映画を見ながら育って、監督になっているわけだけど、ミニシアターが自分のふるさと、スタートという感じがする。シネコンって、スタッフの方やお客さんの顔が見えないんですよね。監督としてはミニシアターで上映してもらえるのは嬉しいことではあります。

夏帆:仕事をはじめたのが12歳、それまでは映画に触れてこなかった。仕事をはじめてから観るようになって、10代のころから、ミニシアターや単館系の映画にずっとあこがれがありました。いまはコロナ禍で、ミニシアターもなかなか厳しいと思いますが、映画を作っても、かけてくれる映画館がなければ見ていただくことができません。だから、なんとか多くの人に、いろんな作品をもっと見ていただきたいなと思っています。

現代アートハウス入門公式サイト
https://arthouse-guide.jp/

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