映画『エターナルメモリー』(8月23日(金)公開)のトーク付き試写会が8月19日(月)に開催され、ジャーナリストの堀潤が登壇した。
著名なジャーナリストである夫、アウグスト・ゴンゴラと、国民的女優でありチリで最初の文化大臣となった妻、パウリナ・ウルティア。20年以上に渡って深い愛情で結ばれたふたりは、自然に囲まれた古い家をリフォームして暮らし、読書や散歩を楽しみ、日々を丁寧に生きている。そんななかアウグストがアルツハイマーを患い、少しずつ記憶を失い、最愛の妻パウリナとの思い出さえも消えていってしまう――。
本作は、アルツハイマーを患った夫アウグストと、困難に直面しながらも彼との生活を慈しみ彼を支える妻パウリナの、ささやかな幸せにあふれる丁寧な暮らしと、ふたりの愛と癒しに満ちた日々を記録したドキュメンタリーであり、真実のラブストーリー。監督は、『83歳のやさしいスパイ』(2020)でチリの女性として初めてアカデミー賞(R)にノミネートされたマイテ・アルベルディ。本作で自身2度目となるノミネートを果たす快挙を成し遂げた。
イベントでの上映後、場内は温かい拍手に包まれ、余韻冷めやらぬ中、堀のトークイベントが始まった。
本作を見た堀は「取材者にとってこれまで積み上げた事実が消えてしまうことはどんな辛いことだろうか。ジャーナリストの仕事は単に目の前の事象を解き明かすだけでなく、歴史的な経過、事実や記録にもとづいて今を分析し将来に向けた一手を伝えていくもの。権力と闘い、メディアの中で何がおきていたのかを考え続けていた人にとって、記憶が消えていくことがどれだけ恐怖だったかと思う。同じ仕事をしている者として身につまされた」と、ジャーナリストだったアウグストに想いを馳せた。
さらに「本人の記憶が消えていく中で、変わりゆくチリという国家のあり方もしっかりとドキュメンタリーの記録として残すという監督と妻のパウリナさんの思いが感じられた」と感想を述べた。
堀は、自身がキャスターを務める報道情報番組「堀潤モーニングFLAG」(TOKYO MX)でも、昨年11月に認知症患者の社会参加についてご紹介するなど、認知症に関する報道を積極的に行っており、「推計では2025年には高齢者の約5人に1人が認知症になると言われている。映画で描かれているような温かいケアではなくて、日本の格差社会の中で認知症患者や家族を隅っこに追いやってしまうような現状がある」と話す。
堀が認知症患者への措置として問題だと強調するのが「医療保護入院制度」だ。これは、医療的な措置と保護が必要であるにもかかわらず、本人が状況を正しく把握できない場合は、本人の同意なしで精神病棟等に入院させるという制度。「今までは本人や家族の同意が必要だったが、今年の春に行われた規制緩和により本人や家族の同意も必要なくなった。というのも独居のお年寄りが増えてきて、彼らが認知症になったときに、自治体の権限で医療保護入院を実施できるようになった。仕方がないという事もできるが、国際社会から見るとこれは人権侵害と指摘されている。本来は社会や地域で患者や家族を支援していくべきだが、都市部では難しく、実際は認知症患者に対して、この映画とは対極のような措置がなされている」と問題提起した。
また、「福祉に関する大型施設は区外・郊外に集中している。辛い言い方だが、現代の姥捨山といえる。快適な都市空間から認知症や精神疾患を煩う方々を排除するという構造がある。地域の秩序を乱す人々は排除してほしいという人たちがいる。私も含めて、将来認知症になったときに行き場がなくなる。2040年には高齢者の約46%が認知症になるという推計があり、ここ10~20年の間に、近しい方々やご自分が当事者になる可能性がある。危機はすぐ目の前にある」と警鐘を鳴らした。
『エターナルメモリー』の中では、妻パウリナが自分の職場である劇場にアルツハイマーである夫アウグストを連れて行くシーンが出てくる。まわりの人びともそれを温かく受け入れている姿が印象的だ。近親者のみが介護をするのではなく、社会全体が支え合うために必要なことを質問された堀は、2016年に起きたやまゆり園事件を例に挙げながら、「ひとりひとりはそんなつもりはなくても、社会構造として外に追いやってしまうことに気づいていながらも、偏見に同意してしまっている。分断は誰かが引き起こすのではなく、わたし自身が関わっているという視点を持つことが大切。でないと、翻って大切な人を傷つけてしまう社会になってしまう」と、当事者の立場に立つことの重要性を語った。
さらに「なかなか議論することは難しい。社会を変えていくためにはメディアが媒介役になることが大切」と語り、新たな試みを始めていると明かした。「番組の中で、ある自治体とともに話し合いの場所づくりをおこなっていく予定。どこに解決策があるのか、何からできるのか?伝えるだけではなく、みんなと話し合う場をつくっていく。どこかのだれかではなく、わたしたち自身の問題だから」と語った。
最後にチリから届いたパウリナさんのメッセージ動画を見た堀は「アルツハイマーという辛い状況にはなったが、そのことで、生きた証を映画という形にして、世界中の多くの方々に伝播できたということに希望を感じる。大切な映画を制作してくださったので、みなさんにもご家族やご友人にシェアしてほしいと思う」と締め括り、イベントは終了した。
『エターナルメモリー』
出演:パウリナ・ウルティア、アウグスト・ゴンゴラ
監督:マイテ・アルベルディ
プロデューサー:パブロ・ラライン
原題:LA MEMORIA INFINITA
英題:THE ETERNAL MEMORY
2023年/チリ/スペイン語/85分
後援:インスティトゥト・セルバンテス東京
提供:シンカ、シャ・ラ・ラ・カンパニー
配給:シンカ
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公式サイト:https://synca.jp/eternalmemory/
8月23日(金)、新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
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