【レポート】映画『ガザの美容室』フェミニズムZINE『NEW ERA Ladies』の制作者が語る“オシャレ”と“エンパワーメント”

ガザの美容室

6月23日(土)より公開の映画『ガザの美容室』。パレスチナ自治区、ガザの小さな美容室を舞台に戦争状態という日常を生きる女性たちを描いた本作のトークイベントに、フェミニズムZINE『NEW ERA Ladies』を制作している宮越里子さんとsuper-KIKI さん姉妹が登壇した。

日時:2018 年6 月23 日(土)
会場: アップリンク渋谷(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1階)
ゲスト:宮越里子さん(フリーランス・デザイナー)、super-KIKI さん

本作はパレスチナ自治区ガザの小さな美容室を舞台に、 戦争状態という日常をたくましく生きる13人の女性たちを描いた作品。身の回りの社会への違和感、疑問、怒りを“デザイン”“ファッション”“ZINE”という形で可視化し表現する宮越さんとsuper-KIKI さんは、まず最初に「この映画で描かれている、かねてよりフェミニズムの思想が批判してきた男尊女卑社会のおかしさと、エンパワーされるオシャレについて、自分が共感した部分と、共感するからといって、“全く同じ”では済まされないパレスチナ ガザ地区の状況について話したい」と説明。

本作の女性たちの描き方について、super-KIKI さんは「オシャレをすることは、彼女たちにとって平常心を保ったり、エンパワーされるもの。このことは私たちも同じ」と述べた。それに対して宮越さんは「彼女たちが美容室で繰り広げる、夫やパートナーへの愚痴大会にも共感した。あの場に私たちがいたら絶対盛り上がっている(笑)」と応え、「モラハラだめんず、DV男、妻がいないと何もできない夫など、家父長制に染まる典型的なタイプの男性によって、彼女たちは悩まされている。実際、日本でも同じような状況な人がまだまだいる」と言及。

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印象的だったシーンについて、super-KIKIさんは「夫の浮気で離婚調停中のエフィティカールが、口紅を塗って自分の顔をじっと見つめた後に、若い花嫁に年齢を訊く。奔放で自信家な彼女が、実はエイジズムの呪いにかかっていて、すごく切ないシーン。“年齢はただの数字です”って言いたいけど、年齢を気にしてしまう彼女の気持ちもわかる」と述べ、宮越さんも「エフィティカールが、銃撃戦が激しくなったとき、タバコを吸いながら震える手でマニキュアを塗るシーンも本当に切ない。あと、彼女が取っ組み合いの喧嘩をした相手のサフィアが涙目で口紅を塗り正気を保とうとするシーンも、本当に大好き。やっぱり赤リップは元気出る!」と熱く語った。

また、super-KIKIさんは「花嫁サルマは、美容室の外で突如始まった銃撃戦のせいで、メイクアップも途中で、結婚式に間に合わない。ここにガザの絶望が詰まっている」と述べ、宮越さんは「私たちと決定的に違うのは、美容室の外では銃撃戦が起こっているということ。共感できることもあるが、“全く同じ”とは言いきれない状況がここにある」と言及。

トーク終盤、super-KIKI さんは「日本でも、戦前のオシャレなモダンガールと、戦時中のモンペ姿の女性の写真を見て、そのギャップにショックを受けた。表現を奪われることは、命を奪われることと同じ。生きるために、オシャレを死守するべき」と主張。そして、宮越さんは「フェミニズムに国境はない。フェミニストにとって、パレスチナのような第三世界(注)の女性たちの状況に目を向け、発信することは、彼女たちを救うと同時に、家父長制の解体を目指すフェミニストにとって普遍的な平等に繋がる」と語り、最後に「私たちにとってZINEはプロテストアイテム。男尊女卑社会に抵抗できる表現だし、女性の活躍の場を広げるものだと思っている。この映画も、彼女たちの日常を通して戦争の悲惨さを伝える、映画自体がパレスチナ ガザ地区の現状を伝えるプロテスト大衆芸術になっている」と締めくくった。

(※)トーク中では、第一世界が資本主義国、第二世界が社会主義国であるとしたうえで、第三世界が新植民地や経済途上国として用いられている。

宮越里子(みやこし・さとこ)
フリーランス・デザイナー。神奈川県川崎区生まれ。デザイン事務所1社、((STUDIO))、YUMORE.を経て独立。『ミュージック・マガジン』『AERA』など、エディトリアルデザイン、グラフィックデザインを中心に手がける。共同制作として、フェミニズムZINE『NEW ERA Ladies』企画・デザイン担当。文化と政治と日常を繋ぐ、セレクトポップアップ・ストア『CUSMOS(カルチャーに政治を持ち込んですいません)』発起人。〈人権と平等〉ヴィジョンを大衆文化と繋げるべく、思想、デザインともに提案・制作中。
super-KIKI
「路上と日常と文化を切り離さない」をテーマに、2011年よりデモや抗議活動に参加しながら自分の身の周りに起きている問題から感じたメッセージを、主にシルクスクリーンやステンシル等DIYツールを使ってアパレルグッズなど人が身につけられるものに落とし込んだアイテムを中心に制作。路上のプラカードやスピーチを引用することも多い。フェミニズムZINE『NEWERA ladies』ではイラスト、ファッション、漫画レビューを担当。個の自由と尊厳を尊重する事の難しさと戦いつつ地道に切り拓く表現に挑戦中。

作品タイトル:『ガザの美容室』
出演:ヒアム・アッバス、マイサ・アブドゥ・エルハディ、マナル・アワド、ダイナ・シバー、ミルナ ・ サカラ、ヴィクトリア ・ バリツカほか
監督・脚本:タルザン&アラブ・ナサール
2015/パレスチナ、フランス、カタール/84分/アラビア語/1:2.35/5.1ch/DCP
字幕翻訳:松岡葉子
提供:アップリンク、シネ・ゴドー
配給・宣伝:アップリンク

公式サイト:http://www.uplink.co.jp/gaza/

アップリンク渋谷、新宿シネマカリテほか全国順次公開中

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