映画『白鍵と黒鍵の間に』が10月6日(金)より公開となる。この度、日本大学芸術学部のOBである池松壮亮と冨永昌敬監督が、自身の後輩にあたる学生たちに向けた試写会付きティーチインイベントに登壇した。
本作は、昭和末期の銀座を舞台に、未来に夢を見る「博」と夢を見失っている「南」、二人のピアニストの運命が大きく狂い出す一夜を描く物語。南は才能にあふれているが、夜の世界のしがらみに囚われて夢を見失ってしまったピアニスト。一方、博は希望に満ち、ジャズマンになりたいという夢に向かって邁進する若きロマンチスト。時にすれ違い、時にシンクロするカードの裏表のような関係の2人を、池松壮亮が繊細に演じ分ける。
原作はジャズミュージシャンで、エッセイストとしても活躍する南博の「白鍵と黒鍵の間に-ジャズピアニスト・エレジー銀座編-」。ピアニストとしてキャバレーや高級クラブを渡り歩いた3年間の青春の日々を綴った回想録だが、共同脚本を手がけた冨永昌敬監督と高橋知由が一夜の物語に大胆にアレンジ。南博がモデルの主人公を「南」と「博」という二人の人物に分けて、“3年”におよぶタイムラインがメビウスの輪のようにつながる“一夜”へと誘う。
『白鍵と黒鍵の間に』日芸試写会&ティーチインイベント
日程:6月21日(水)
場所:日本大学芸術学部江古田キャンパス
登壇(敬称略):池松壮亮、冨永昌敬監督
二人共が日芸の映画学科出身ということで実現した本イベント。冨永監督は「今回ぜひ池松さんに参加して欲しいと思っていたんです。というのも、実は電話越しに学生時代の池松さんとお話しをしたことがあって。そんな彼とこうして映画を作りました。と報告したい気持ちもあって…」とまさかの思い出を明かすと、池松も「冨永監督のファンです、という話しを教授にしたら“今電話するから話せ”と言われて…嫌だ!っていったんですけど(笑)」と実は学生時代から冨永監督と関わりがあった事を明かし、不思議な縁を経て本作出演に至ったエピソードを披露。
冨永監督はさらに「それから5年後くらいにはマネージャーさんにもお会いする機会があって。ピアニストの映画を撮るんですけど、池松くんはピアノ弾けますか?というお話しをさせていただいていました。それから大分お待たせしてしまいましたが、ピアノも半年ほど練習してくれて、こうして南と博を演じてくれています」と長い時を経て完成した本作と、池松との初タッグに想いを馳せた。
続けて冨永監督が、本作でジャズピアニスト役、さらに主人公である“南”と“博”を、一人二役という形で見事に演じきった池松に「いま、難役が続いている気もするけど、ピアニスト役を演じてどうだった?」と質問を投げかけると、池松は「(ピアノは)少し触ったことがあったけど、そりゃ大変でした。けど面白かったです。ぜひともやりたい!と思った役でしたし、ジャズも元々大好きだったので、とても幸せな作品でした」とその難しさを楽しみながら今回の役柄を演じていたそう。
ピアノ自体も半年間の猛練習を重ねた上で撮影に臨んでおり、その裏側について冨永監督は「池松くんの練習では、音楽監督の魚返明未さんの演奏をコピーしてもらいましたが、撮影時には完璧に弾きこなしていました。『ゴッドファーザー 愛のテーマは』、撮影で演奏した同録をそのまま使っています」と明かす。冨永監督からの絶賛のコメントを聞いた池松は、「そのアレンジがあまりにかっこよくて難しかったので時間はかかりましたけど」と練習の日々を振り返りながら「“ピアニストの役を演じました。でも音は違うんですけど”というのは俳優にとっても恥ずかしい事じゃないですか。ピアニストの役をやるうえでピアノを触るのは当たり前の事ですし、とても良い時間でした」とプロ根性を感じさせるさすがのコメントを語った一方、「演奏の合間にセリフ言うのは嫌でしたけど(笑)」と冗談めかして冨永監督にチクリとクレームを入れる一幕も。冨永監督も笑顔をみせながら、学生たちからも笑い声が起きていた。
トークは、次第に本作の制作秘話にも膨らんでいき、南博の『白鍵と黒鍵の間に-ジャズピアニスト・エレジー銀座編-』を大胆にアレンジした構成についての話しに。冨永監督は「実は池松くんからもアイデアをもらいました。最初は一人二役ではなく、キャバレーと高級クラブを行き来しながら、一人のピアニストが銀座を去る最後の一夜を描こうとしていたんだけど、そうすると最後の日しか描けない。だから次の修正の時に、銀座にきた最初の日と最後の日を交互に描きながら、それを一夜の出来事のように描けないだろうか、主人公も現在と過去で分けて考えてみよう、という風に変えていったんです。そこからさらに、ラストに向けたシーンを描く中で、池松くんから“ここはもっと面白くできると気がする”、という意見交換をしていて。ディスカッションしながら、じゃあこうしようか!というラストが生まれました。こんな風に俳優さんと意見を交わしながら進められるのは刺激的なことでした」と物語について、主演の池松のアイディアを取り入れながら構成を決めていったことを告白。
池松も「念願かなっての冨永組だったので、何としてもいい作品として残したいと思っていました。普段は、まぁいいか、と思ってしまうことも全部質問攻めにしてしまいました。冨永さんはその質問にすべて、自分の考えを凌駕するアンサーを出してくれて…そのことにものすごく感謝していますし、冨永さんの圧倒的なストーリーテリングとアイディアの豊富さを感じる日々でした」と初タッグとなった冨永組の現場について思いを吐露。
池松は、役を演じる上でも「そもそも、タイトルの『白鍵と黒鍵の間に』の間には何があるのか?この映画のゴールはどこなのか?白鍵って?黒鍵って?そういうものを糸口にしながら探していきました」と役作りについてのアプローチをあかし、「人生が浮かび上がることがゴールだと思っていました。より人生を感じるような映画を目指していました。時勢を追う普通の流れではなく、冨永流の映画のマジックで、そのゴールをどう浮かび上がらせるのか、このことを目指していきたいと思っていました」と一筋縄ではいかない冨永作品の中での役作りについても明かしていた。
そんな二人のリアルな言葉の数々は、今まさに映画学科で映画作りを学ぶ学生たちにとって、唯一無二の貴重なもの。日頃、自分たちが目指している現場のリアルな裏話に興味津々の様子が伺えた。
そんな中、学生たちからの生質問に答えるQ&Aが実施された。実際に監督として映画作りを学んでいるという学生からは、「俳優の意見を取り入れる事があるなんて、興味深くお話しを伺っていました」と二人のエピソードを真剣に受け止めたコメントとあわせて「撮影時で大変だったことは?」という質問が。池松が「音楽映画の力を改めて見直すと共に、音楽映画を作るのって大変だな、と。セリフと音のタイミングを全部計算して撮影しないといけないし、全員がそのことに苦労していたと思います」と答えると、冨永監督も「演奏シーンは誰が何をするのか共有するのが大変で…。編集部のスタッフがVコン(絵コンテの映像版)を用意してくれたんだけど、登場人物10人くらいの動きを演奏にあわせて実際に映像として確認できるから、すごく助かりました。僕が一番ホッとしたと思う(笑)」と音楽が重要な作品ならでは苦労エピソード告白。
さらに、冨永監督は「(本編終盤の)ビルとビルの隙間で撮影したシーンも大変だった」と明かし、「本物のビルとビルの隙間を借りて撮影しようとしたんだけど、狭くて…。結局、駐車場を借りて、片側だけが本物のビルの壁、もう片方は美術部に壁を作ってもらって撮影したんです。ちょっと広い画を撮るときは壁を移動させたりして…」と驚きの撮影手法を公開。該当のシーンは、一人二役を演じた池松が、まるで自身と対話するかのような、現実の世界と幻想の世界が入り交じるような印象的なシーンでもあるのだが、学生からは、「そんな難しいシーンを演じる時はどう演出するのか、どう演じるのか?」と具体的な質問が。
池松は撮影を振り返りながら、思わず「どう演じるか……?」と悩む様子をみせ、そんな珍しい姿に冨永監督や学生たちからは暖かな笑い声が。そんな池松に冨永監督が助け舟を出し「最初に“博”の池松くんを撮影して、その後に衣装を着替えて別の池松くんを撮影して、という感じでした。対話があるシーンだから、誰かが仮の相手役を演じないといけないんだけど、誰がいいかな、誰だったら池松くんも納得してくれるかな、と悩んでいて…。最終的に僕がスタンドインを演じています(笑)」と冨永監督自らが演技を披露して、池松の相手役を務めた驚きの撮影エピソードを明かし、学生たちを驚かせていた。
多くの学生たちから、二人に質問が投げかけられる盛り上がりをみせる中、ある学生からは「第一線で活躍し続ける二人の言葉に焦りと不安を感じてしまった」という本音が漏れると、池松は「焦りは当然あると思います。自分も学生の時はそのことを隠しながらも一番焦っていたし、そうではない周りをみて腹立たしく思ったりもしました。でも未来にしか結果が分からないこと。そのことを受け入れて、情熱を注いでほしいと思いました。夢中になることを優先して欲しい。その先に答えは必ずあります。成功することが幸せじゃなく、やめることだって幸せです。目の前にあることに情熱を注いでください」と、学生時代の実体験を交えながら、未来の日本映画界を担う力を持った学生へと力強いエールを送っていた。
最後に、冨永監督が「今日、こうして映画を観てくれてお礼を申し上げます。10月6日(金)から、テアトル新宿で公開される作品です。映画館で観るとまた違うものが感じられることもあると思います。秋には僕が(日芸で)講義を担当する機会もあるので、またぜひその時に皆さんとお会いできると嬉しいです。悩むこともあると思うけど、(映画作りは)仲間がいるからできること。いろんな焦りも共有できると思います。楽しいことに飛びつくことを忘れないでください」と学生たちへ向けて語りかけ、池松も「コロナ禍があって映画の価値ってなんだろう?と色々と考えました。皆さんは在学中にコロナを経験して本当に大変だったと思います。僕たちが目指す映画の価値はどんどん下がっています、それがすごく嫌なんです。時代の移ろい、人生の移ろいの中に、音楽が、映画がある、ということをこの作品でどうしてもやりたかった。それが伝わっていたら嬉しいです。楽しく、“ノンシャラント”に、情熱に従っていって欲しいと思います。そしていつか、一緒に仕事をしましょう」と学生たちへメッセージを投げかけ、イベントは幕を閉じた。
ストーリー
昭和63年の年の瀬。夜の街・銀座では、ジャズピアニスト志望の博(池松壮亮)が場末のキャバレーでピアノを弾いていた。博はふらりと現れた謎の男(森田剛)にリクエストされて、“あの曲”こと「ゴッドファーザー 愛のテーマ」を演奏するが、その曲が大きな災いを招くとは知る由もなかった。“あの曲”をリクエストしていいのは銀座界隈を牛耳る熊野会長(松尾貴史)だけ、演奏を許されているのも会長お気に入りの敏腕ピアニスト、南(池松壮亮、二役)だけだった。夢を追う博と夢を見失った南。二人の運命はもつれ合い、先輩ピアニストの千香子(仲里依紗)、銀座のクラブバンドを仕切るバンマス・三木(高橋和也)、アメリカ人のジャズ・シンガー、リサ(クリスタル・ケイ)らを巻き込みながら、予測不可能な“一夜”を迎えることに…。
作品タイトル:『白鍵と黒鍵の間に』
出演:池松壮亮
仲里依紗 森田剛
クリスタル・ケイ 松丸契 川瀬陽太
杉山ひこひこ 中山来未 福津健創 日高ボブ美
佐野史郎 洞口依子 松尾貴史 / 高橋和也
原作:南博「白鍵と黒鍵の間に」(小学館文庫刊)
監督:冨永昌敬
脚本:冨永昌敬 高橋知由
音楽:魚返明未
製作:大熊一成 太田和宏 甲斐真樹 佐藤央 前信介 澤將晃
プロデューサー:横山蘭平 アソシエイト・プロデューサー:白川直人 寺田悠輔 ライン・プロデューサー:荒木孝眞
撮影:三村和弘 照明:中村晋平 録音:山本タカアキ 美術:仲前智治 装飾:須坂文昭
ヘアメイクデザイン:西村佳苗子 助監督:久保朝洋 制作担当:中村哲也 スクリプター:押田智子
編集:堀切基和 仕上担当:田巻源太 エンディング音楽:南博 宣伝プロデューサー:小口心平
製作幹事:ポニーキャニオン/スタイルジャム
制作プロダクション:東京テアトル/スタイルジャム
制作協力:ARAKINC.
製作:「白鍵と黒鍵の間に」製作委員会
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
2023年/日本/94分/カラー/シネスコ/5.1ch
配給:東京テアトル
公式サイト:hakkentokokken.com
公式Twitter:@hakkentokokken
コピーライト:(C)2023 南博/小学館/「白鍵と黒鍵の間に」製作委員会
10月6日(金)テアトル新宿ほか全国公開
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