【レポート】『家族を想うとき』フリーランス協会代表理事 平田麻莉さん、“自己責任論”ではなく“サポートするしくみ”必要

家族を想うとき

9/17放送のNHK「クロ現+」で是枝裕和監督との対談も大きな話題となった、ケン・ローチ監督最新作『家族を想うとき』が12/13(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開となる。

日本でも大ヒットを記録した『わたしは、ダニエル・ブレイク』を最後に映画界からの引退を表明していたケン・ローチ監督。名匠が引退宣言を撤回してまで描きたかったのは、グローバル経済が加速する中で変わっていく人々の働き方と、時代の波に翻弄される「現代の家族の姿」だ。

父リッキーは、マイホーム購入の夢をかなえるために、フランチャイズの宅配ドライバーとして独立。母アビーはパートタイムの介護士として、時間外 まで1日中働いている。家族を幸せにするはずの仕事が、家族との時間を奪っていき、高校生の長男セブと小学生の娘のライザ・ジェーンは寂しい想いを募らせてゆく…。

この度、特別試写会にて、二児の母として子育てをしながら、フリーランスはじめ誰もが自分らしく働ける社会を目指し活動する平田麻莉さん(一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事)をお招きし、トークイベントが行われた。

目次

『家族を想うとき』特別試写会トークイベント 概要

日時:11/23 (土) 17:15~18:00*上映後実施
場所:アキバシアター
登壇:平田麻莉さん(一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事)

フリーランスによるフリーランスのためのインフラ&コミュニティを標榜している「一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」。フリーランスと一口に言っても幅は広く、大きく分けると、「独立系」の、どこにも雇用されずに法人経営や個人事業主として働く人。また、「副業系」の、クラウドソーシングやシェアリングエコノミーで、とくに開業届を出さずにスキマワーカーという形で働く人、となる。

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日本のフリーランスの数は、厚労省の推計では390万人、内閣府の推計では341万人。労働人口の約20人に1人がこういった働き方をしており、世界的な流れとしても、その数はどんどん増えているんです。

フリーランス/個人事業主/ギグワーカーという労働形態の負の側面が社会を蝕んでいることをテーマに描かれた本作。平田さんは感想について、ずっしりと重い気持ち。フィクションではなく、実際に世界そして日本でも起こっていくこと。救いがないのは現実世界がそうだからであり、考えさせられますね…。」とコメント。

一口に“自営”といっても、いわゆるプロフェッショナルとして知見や専門性を提供しながら自分で裁量を持って働く人と、企業にとって労基法を気にしなくていい安価で融通のきく労働力という形で搾取されてしまう人、きちんと分けて議論すべきだと思います。実際に我々も、政府にそのように発信をして、後者に関してはいかに労働法で保護していくかということを厚生労働省でも真剣に議論していただいているところです。」と、日本におけるフリーランスの現状を整理した。

ケン・ローチ監督の怒りを感じる本作の描き方について、新自由経済への疑問が色濃く出ていたと思います。新自由経済は、前提として、人は機会さえ平等に与えられれば、市場原理が働いて、神の見えざる手によってうまく調整されるだろうという考えがある。でも私は、人間平等主義というのは幻想だと思っています。人間はもちろん色んな能力や才能を持っていて、その人の評価というのは一元的になされるわけではないので、ことホワイトカラーの仕事で成果を上げて稼ぐとなるとやはり差は出てきてしまうし、全て市場原理に任せてしまい社会保障やサポートがいらないというのは、現実問題、乱暴ですよね。

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雇用でないことで起きる問題は、具体的にどのようなものがあるのか?我々の協会では「ビジネストラブル」「ライフリスク」「ビジネスリスク」の3つに分けてご説明しています。「ビジネストラブル」についていうと、フリーランスは業務委託の契約を交わし、それは民法がベースとなるわけなんですが、契約条件が曖昧であったり、一方的に不利な条件にされてしまったり、支払い不履行があったり。パワハラやセクハラの問題もあります。労働基準法の中では防止措置があるものでも、フリーランスの場合は無法地帯になっており、トラブルにも泣き寝入りするしかないといったことになってしまっています。労災も保障外ですので、映画の主人公リッキーのように、怪我した場合の保障も一切ないです。

また、個人事業主にとっては子どもを持つことが贅沢品に思えるような現状も…。昨年実態調査を行ったところ、フリーランスと会社員で、出産前後にかかる費用の差が300万円あることがわかりました。会社員であれば、産休・育休中の所得保障(それぞれ健康保険と雇用保険が財源)が個人事業主は対象外。加えて、会社員であれば産休中の社会保険料の納付が免除される。個人事業主もこの4月から年金保険料は免除になったが、それ以外は収入が止まっている状況であっても払い続けなければいけない。そういった経済的な負担もあるせいか、我々の調査だと、フリーランスで働く女性の44.8%が産後1ヶ月以内に復帰をしていて、会社員であればまだ産休中であるはずの産後2ヶ月以内に復帰している方は6割近かったです。

人生100年時代、労働人口も減る中で、女性やシニアも働き続けなければいけない社会になってきており、子育てや介護、体力や健康上の問題など、理由は様々あると思いますが、フレキシブルな働き方を望む方は増えています。一昔前であれば、「独立」というのは自己責任ということでよかったのかもしれない。私自身も10年くらいフリーランスとして働き、出産も保活も2回経験していて、当時は「好きで選んだのだから仕方ない」と疑問にも思わなかったのですが…。今は、これだけ労働寿命が長くなり、みんな働かなければいけなくなっている中で、柔軟で多様な働き方を求める方は増えていますから。良い意味で、敷居も下がっていますし。そこをやっぱり、「自己責任論」ではなくサポートするしくみを作っていかないと、みんなが長く幸せに働ける世の中にはならないだろうと思います。」と、時代とともに変わっていく働き方について、社会全体が考え方を変えていく必要性を訴えた。

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協会が目指す将来的なビジョンについては、実態調査を行うと、皆さんが一番欲しがっているのは、「ライフリスク」の分野で、出産や介護に関するセーフティネット。そして、健康保険。国民健康保険には健康診断など予防医療の観点が含まれず、傷病手当もないので、会社員と変わりない社会保険のしくみを求める声は大きいです。我々もずっと署名や政策提言を続けています。政府の検討会に呼んでいただいたりする中では、委員の方々も総論として賛成です。働き方に中立なセーフティネットを作らなければいけないね、ということはだいぶコンセンサスが取れてきています。あとは、財源が絡む話なので、会社員の方にも納得感のある形でどう作っていくか、という少し息の長い議論になるかと思いますが、方向性としてはそのようになっています。」と、近い未来の明るい展望も語った。

さらに、話題は世界的に拡大するギグエコノミーへ。フリーランスとして自営的な就労をする方は、自分で裁量を持って働けるということが大事。これまでの「労働者性をどこに線引くか」という議論だと、働く場所や時間・指揮命令という部分が判断軸として見られており、ギグワーカーは働く場所も時間も自由なのだから自己責任でしょ、と言われていたのですが…。私自身も色々なケースを見ていて、やはり「値決めをする権利」と「仕事のボリュームを決める権利」がないと、自由裁量があるとは言えないと思います。リッキーも、休みたくても休めない、こなさないといけないノルマがあるという状況で、1件あたりの報酬も決められています。ほぼ労働者に近い働き方は“雇用類似”“準従属労働者”という言葉がありますが、労働法の保護が必要だろうと言われています。政府側でも今、法律や経済学の先生たちが議論をしていて、「“雇用類似”と曖昧にせず“雇用”に含める」「労働法の適用範囲を広げる」「新しい法律を作る(第3立法)」という案が出ています。そんなに簡単に決められる問題ではないので時間はかかっていますが、我々も実態や要望を出し続けて、変えていきたいと思っています。

平田さん自身も、フリーランスの仕事をしながら二児の母として子育てをしている。私自身はこの働き方がすごく好きなんです。フリーランスは保活が不利なので2人とも待機児童になってしまいましたが、2人目の子が小さいときは “カンガルーワーク”と呼んで開き直って、抱っこひもで抱きながら仕事先へ連れて行っていました。フリーランスだから、それを理解してくれるお客様とだけ仕事ができたと思います。そういう柔軟性はこの働き方の魅力だと思います。」と目を輝かせた。その一方で、「親と子が語り合い触れ合う時間は本当に大事だと思います。映画のように、留守電で一方的にメッセージを残すだけの会話では、寂しさが募ってしまいますよね…。私も、どちらかというとワーカホリックで、どんどん仕事を入れてしまうタイプではあるんですが、1日1回、子どもたちと大笑いすることを決めています。やはり裁量がある働き方だからできていることだと思うので、家族が不幸になってしまう働き方は本当になくしていきたいですね。」と力を込めた。

【平田麻莉(ひらた まり)さん プロフィール】
大学卒業後、PR会社で国内外50社以上の広報業務に従事。修士号取得、専業主婦を経て、現在はフリーランスで広報や出版を行う傍ら、プロボノの社会活動として、2017年1月にプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会設立。 政策提言を始めとする8つのプロジェクト活動や、フリーランス向けベネフィットプランの提供など、 新しい働き方のムーブメントづくりと環境整備に情熱を注ぐ。

家族を想うとき

ストーリー
イギリス、ニューカッスルに住むある家族。父のリッキーはマイホーム購入の夢をかなえるために、フランチャイズの宅配ドライバーとして独立。母のアビーはパートタイムの介護福祉士として、時間外まで1日中働いている。家族を幸せにするはずの仕事が、家族との時間を奪っていき、高校生のセブと小学生の娘のライザ・ジェーンは寂しい想いを募らせてゆく。そんななか、リッキーがある事件に巻き込まれてしまう――。

作品タイトル:『家族を想うとき』
出演:クリス・ヒッチェンズ、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァティ
2019年/イギリス・フランス・ベルギー/英語/100分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/原題:Sorry We Missed You/日本語字幕:石田泰子
提供:バップ、ロングライド
配給:ロングライド

公式サイト:longride.jp/kazoku/
コピーライト:(C) Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinema and The British Film Institute 2019

12/13(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

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