『関心領域』ジョナサン・グレイザー監督「頭で考えるのではなく、体でずっしりと重みを感じる作品にした」

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映画『関心領域』(5月24日(金)公開)の試写会が5月15日(水)に都内で開催され、上映後にはジョナサン・グレイザー監督、音楽を担当したミカ・レヴィ、プロデューサーのジェームズ・ウィルソンがオンラインで出席し、Q&Aが実施された。

アウシュビッツ収容所の隣で幸せに暮らす一家の姿を描くという衝撃作だが、そもそも本作を制作しようと考えた動機について、グレイザー監督は「以前から、いつかホロコーストに関する作品を撮りたいという思いはありました。これまでもホロコーストを扱った作品は多数つくられてきましたが、それらの二番煎じにならないような“何か”を撮りたいと思っていて、この作品では加害者側の視点で見えるものを描ければと思いました。この作品で訴えたいことは『我々は何も学んでこなかったのか?』、『なぜ同じ過ちを繰り返すのか?』ということです。現代とは関係のない80年前を描いた歴史映画を見せるつもりは一切なく、いまの時代に訴えかける作品にすべくフレーミングした結果、こういう作品ができました」と語る。

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映画は冒頭からしばらくの間、真っ暗な闇が映し出され、そこに悲鳴などの音が重なっていくが、音楽を担当したレヴィはこの印象的なオープニングの意図について「一般的な映画では、タイトルシークエンスでバンっと音を奏で、そこに風景が映し出されるのが古典的なやり方ですが、この作品では特有の意図があって、あのようなオープニングになっています。真っ暗闇が映し出されて、音を聞くというのは奇異な感じがしますが、この作品は目で見る映画ではなく、耳で聴く映画なので、繊細に音に対して耳をそばだててほしいという目的で冒頭、ひたすら音を聴かせているのです。観客の耳が音に慣れることで、サウンドデザインに耳をすますように設計されていて、そこで描かれる“暴力”を目で直接見ることができなくても、耳で感じることができるようにデザインしています」と語り、本作における“音”が伝える情報の重要性について力説する。

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ある観客からは「ロングショットが使われたり、近い距離でも俳優の顔に影がかかっていたりして、役者の表情が見えない作り方をされていたように感じ、印象的でした」という感想が出たが、グレイザー監督は「意図的な演出です」とうなずき、その意図について「観客を役者の芝居や映画的な心理によって、(映画に)引き込むことをしたくなかったんです。壁にへばりつくハエのように、登場人物たちをひたすら観察するような作品にしたいと考えました。彼らの行動ややり取り、体の動かし方を見つめてもらうという意図で演出しており、(役者との)批評的な距離を保って撮影しました。何より私自身、監督として役者の“芝居”を見ているのではなく、実在する人物の姿をドキュメンタリー作家として撮っているような感覚でいたいと思っていました」と説明する。

撮影においては、セットに複数台の小型カメラを設置するという仕掛けを行なっているが、プロデューサーのウィルソンはこの試みについて、「あくまでもこの作品のテーマを描くための方策として用いられたものです。その狙いとは、観客に『いま、この家族がここで生きている』ということ、それを我々が間近で見ているんだという感覚を味わってほしいというものです。そして、その狙いは上手くいったのではないかと思います」と手応えを口にする。

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グレイザー監督、ウィルソンプロデューサーの言葉にもあるように、本作はまさに現代を生きる人々の視点で80年前の歴史を目撃するような作りになっており、現代もなお続く戦争や紛争、対立への人々の無関心や不誠実な態度への強いメッセージを投げかける作品になっている。

グレイザー監督は「我々は、世の中で起きている問題を黙認し、ある意味で共犯関係にあり、安全・安心な領域で過ごしたいがゆえに、本来は対峙すべき問題に対峙せずにいます。この作品では、そんな黙認がどこに行きつくかという極端な例を示したつもりです。この映画を観てくださったみなさんが、(劇中の)野心あふれるブルジョワの家庭の中に、自分自身の姿を見出すことができたなら、それが最終的にどこに行きつくのか、ご理解いただけると思います。頭で考えるのではなく、体でずっしりと重みを感じる作品にしたつもりです。毒入りのフルーツを口にしたような苦み――もう二度と口にしたくない苦みを感じてもらえる映画に仕上げているつもりです」と語り、最後にこれから本作に触れる日本の観客に向けて「我々は、黙認や共犯関係を拒絶する力を持っているということをお伝えしたいと思います」と訴えた。

ストーリー
空は青く、誰もが笑顔で、子供たちの楽しげな声が聴こえてくる。そして、窓から見える壁の向こうでは大きな建物から黒い煙があがっている。時は1945年、アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)とその妻ヘドウィグ(ザンドラ・ヒュラー)ら家族は、収容所の隣で幸せに暮らしていた。スクリーンに映し出されるのは、どこにでもある穏やかな日常。しかし、壁ひとつ隔てたアウシュビッツ収容所の存在が、音、建物からあがる煙、家族の交わす何気ない会話や視線、そして気配から着実に伝わってくる。壁を隔てたふたつの世界にどんな違いがあるのか?平和に暮らす家族と彼らにはどんな違いがあるのか?そして、あなたと彼らとの違いは?

『関心領域』
出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー
監督・脚本:ジョナサン・グレイザー
原作:マーティン・エイミス
撮影監督:ウカシュ・ジャル
音楽:ミカ・レヴィ
原題:The Zone of Interest|2023年|アメリカ・イギリス・ポーランド映画
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C) Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

公式サイト:https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/
公式X:@ZOI_movie

5月24日(金) 新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

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